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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「チーマ・ダ・コネリアーノ 風景の詩人」展

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コネリアーノ、サルチネッリ館

Cima da Conegliano. Poeta del paesaggio
Conegliano, Palazo Sarcinelli
26 feb – 2 giu 2010
www.cimaconegliano.it

カクテルや前菜の名前にもなっている、ベッリーニやカルパッチョほど知られていないかもしれない。ティッツィアーノのように、当時欧州一の権力を誇った、スペイン国王の「お気に入り」とまではいかなかったかもしれない。
だが、15-16世紀のヴェネツィア美術を語る中で、絶対に欠かせないうちの1人、ジョヴァンニ・バッティスタ(Giovanni Battista)、通称、チーマ・ダ・コネリアーノ(Cima da Conegliano)。




ヴェネツィアから北へ約60km。
その名の示す通り、ジョヴァンニ・バッティスタはこのコネリアーノ(Conegliano)の羊毛職人の家庭に生まれた。この家は現在も町の中に、「チーマの家」として残っているが、ここで生まれ、やがてヴェネツィアで仕事を得るようになってからも、彼はしばしばここに帰り、そしておそらく、ここで亡くなった、と言う。

そのチーマの展覧会が、実に半世紀ぶりに開かれている。

入口を入って、まずは地図や映像、また主な作品の修復状況を示すパネルなど。
・・・最近よくありがちな、いきなりマルチメディアな導入は、ほんものの作品が少ないのをごまかす手段ぽく、嫌な予感。

だが、本展示場にあたる会場のガラスの自動ドアの向こうの聖母子像を見て、うわーっと胸が高鳴った。
1487年ごろの作品とされる、「聖バルトロメオの祭壇画」の一部。背景が金で塗りつぶされているのは、まだ中世の祭壇画の名残り。だが、聖母子の表情や、その表現に、すでに新しい時代の息吹が感じられる。
いくつかの、聖母子像が続く。それは、当時ヴェネツィア一の聖母子像を描いていたジョヴァンニ・ベッリーニのスタイルに酷似している。だが、チーマの作品、とくに聖母は、顔、鼻から口元にかけて非常に特徴があって、というのも、口元が常にちょこっとむくれたように「へ」の字になっていているので、すぐわかる。
ただただ、天使のように甘く美しい聖母と違って、なぜか急に身近な人のようにみえるから不思議なもの。

そして、このチーマ・ダ・コネリーアーノの名前と、そのアイデンティティーとなっているのが、絵の中の風景。彼はそこに常に、自分の生まれ故郷であるコネリアーノの、町並みと、丘の上の城を描き続けた。
それが、もっともはっきり、正確に描かれているという、聖エレナ像(1495年ごろ、ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵)。個人祈祷用のものか、40.2x32.2cmと小さな作品だが、保存状態もたいへんよく、美しい。

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が、チーマを代表する作品は、なんといっても、大きめの祭壇画。
聖母子や聖人たち、登場人物を1つ1つのパネルに分けて描き、それに額をつけて組み合わせていった中世の多翼祭壇画から、真ん中を大きな1枚の板にして、(ほんとは同時には存在していないはずの人もみんなひっくるめて)「自然な」1つの場面として、描くようになったのがルネサンス以降。
それも、最初は、建築物の中、祭壇や礼拝堂の中のような「だまし絵」の中に登場人物たちを描いていたのを、完全に「アウトドア」にしてしまったのがこのチーマだった。

そのアウトドア志向を既に見せているのが、「聖母子と、聖ジローラモ、使徒ジャコモ」(1489年ごろ、ヴィチェンツァ市立美術館蔵)。

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通称「オレンジの聖母」(La madonna dell’arancio)と呼ばれる、ヴェネツィア・アッカデミア美術館所蔵の作品がその代表作でもあり、てっきり展示されているものとばかり思っていたら、なかったのはちょっと残念だったが・・・ヴェネツィアで見られるものは、各教会にあるものを含め、ヴェネツィアで見ろ、ということだろう。

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リスボンから来ていた、「エジプトへの逃避行」は、ミニチュアながら「オレンジ」と聖母子の部分は非常によく似た構成。もっともこちらは、聖母の後ろにあるのがオレンジの木ではなく、聖母のシンボルでもあるオークの木らしい。

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また、チーマ=祭壇画、と思っていたが、もとは長持ちというか衣装箱というか、木箱のパネルであったと思われる細かい物語絵も展示されていた。今までほとんど気にしたことがなかったが、それらもなかなかよかった。

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そして、オーディオ・ガイドの解説をそのまま受け売りすると、最初は細い筆で精密画のように描かれていたコネリアーノの風景も、16世紀に入って、時代の移り変わりとともに、速いタッチのデッサン画のようになっていく。
一方、登場人物たち、とくに豪華な衣装を誇る司教のマントは、まるでビロードの起毛1本1本が見えるような精密さに、衣装マニアとしては目を見張った。

オーディオ・ガイドはチケット代に含まれており、実質これを借りないと、会場内にはほとんど解説がないので要注意。

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今日はすぐ近くのドォーモだけ慌てて見て、帰ってきたが、丘の上のお城のほか、チェントロ(centro、中心区)にも中世からルネサンス期の建物が多く残るコネリアーノも、小さいが美しい町の1つ。
発泡辛口白ワイン、プロセッコ(prosecco)のワイナリーが続く「プロセッコ街道」の起点でもある。町散歩と、おいしいもの情報は、また改めて紹介できたら、と思う。

・・・やりたいことがいっぱいありすぎて、全然終わらない・・・。

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9 mar 2010
by fumieve | 2010-03-10 07:33 | 見る・観る
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