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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「旅」の旅~テルメーノのサン・ジャコモ教会

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ご案内:トーク・イベント「ヴェネツィアの中世の教会をもっと知りたい」
「旅」ヴェネツィア特集のアドヴァイザーであり、現在「とんぼの本 イタリア古寺巡礼ミラノ―ヴェネツィア」を執筆中の、美術史家金沢百枝さんと編集者さんによる上記イベントが、15日(火)19:00~銀座のアップルストアで開催されます。
都内にお住まい・お勤めの方で、時間と興味のある方はぜひご参加ください!
http://www.shinchosha.co.jp/tabi/hensyubu/index.html



ようやく、というかかなり突然夏の日差しになった。通勤の車窓から見る風景も、緑が濃くなってきた。これまでのスカスカな状態が嘘のように、あのぶどうらしい葉っぱでいっぱいになってきたぶどう畑を見ながら、ああ、今頃、南チロルの「ワイン街道」も緑にあふれているだろうと思った。

「旅」の取材コーディネートの仕事をいただいたときに、ヴェネツィアはともかく、ドロミテ(南チロル)の取材先はどこも、行ったことはもちろん聞いたこともないところだ、と思った。確かに、日本の観光案内などではあまりなじみのない地名だった。
ところが、リサーチに入ってすぐに「あっ!」と思った。取材先の4つの教会、その絵や彫刻はいずれも、イタリアのロマネスク美術を代表するものとして、美術史の教科書などで少なくとも一度は写真などを見たことがあるものだった。




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(私自身の忘れっぽさ、身についてなさはひとまず棚に上げ・・・)

美術の歴史は、フクザツで皮肉。
美術作品がそれそのものとして評価されるようになったのは、つい最近のこと。かつて芸術は、宗教施設や王宮、裕福な貴族や商人の屋敷を飾り、かつ、その中にこめられたさまざまなメッセージを伝えるものだった。実用品であったからこそ、その教会や町、スポンサーが裕福であればあるほど、その時代に応じて常に新しく改築・改装され、古いものは取り壊されたり、漆喰の下に塗り込められて見えなくなったりした。

イタリア語でアルト・アディジェ(Alto Adige、アディジェ川上流)、ドイツ語でSüdtirol(南チロル)と呼ばれるこの地域に、中世ロマネスク時代の城や教会が多く残るのも、ローマ時代、いや、さかのぼれば先史時代からの交通の要所であったこの地域が、その後ずっと貧しかったからにほかならない。北のゴシックも、イタリアのルネッサンス、バロックの波を被ることなく、「流行遅れ」のままひっそりと残された。

今回、初日に訪れたのは、テルメーノという町の外れにある、サン・ジャコモ教会(Chiesa di San Giacomo)。ジャコモはドイツ語でヤコポ、また、この丘一帯をKastelaz(小さい城、のことらしい)と呼ぶため、San Jacopo a Kastelazと表記されていることもある。

町と、ぶどう畑とを見渡しながら上った丘のてっぺんにあらわれる、まるで童話のさし絵のような、石造りの小さな教会。中に入ると、意外にも小さいながら身廊が2つにわかれており、手前のほうはゴシック風のリブ天井から壁にかけて、色鮮やかなフレスコ画で飾られている。これは、1441年、アンブロジウス・ガンデル(Ambrosius Gander)という画家によるもの。町の人々が、かなりリアルに鶏を調理する場面なども描かれており、楽しい。

だが、この教会の「目玉」は、奥の身廊。まず、正面のキリスト受難~磔刑図の絵の下に、剣を掲げた巨大な兵士が横たわっているのが奇妙だ。それも、顔を下に向けて。白地を埋める、様式化されたというか、二次元の花模様も不思議。
半円型のアブシスの方に目を向けると、まず、アーモンド形の中のキリスト像、それを囲む4人の福音書家のシンボルと聖人像。・・・これはいい。
そして、下段に並ぶ、アーチに縁どられた使徒たち。・・・これもいい。
ところが・・・その下には、なんとも奇妙な絵が。
ケンタウロス、セイレン、半人半鳥、多頭ヒュドラ・・・この手のハイブリッドな妙な生き物たちは、確かに、中世のほかの教会などでも、特に彫刻装飾でちらほら見かける。だが、絵は珍しく、しかも一堂に集まってお互いに争っている・・・。
しかも、絵そのものは、美術史的には「リネアリズム」と呼ぶ、つまり太い線で描かれて立体感のない、ヘタウマみたいな絵。

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後世の人々によって、勝手に「暗黒の時代」と決めつけられてしまった中世、必ずしもそうではなかったと最近は見直されているが、中世というと、何か樹海の中のおどろおどろしい世界、的な発想、わからない=コワイという単純な思考を起こしたモトの1つに、こういう絵やなんかもあったに違いない。
この、極めて異教的な絵が、教会の中に、それもよりによって主祭壇の壁をとりまいているのか、わからない。「悪」の例として、ここに描かれたのか、あるいはもっとほかの意味があるのか。わからないけど、見ればみるほどおもしろい、奇妙な絵。

この「怪物」たちの絵こそ、アルト・アディジェ地方のロマネスク絵画の頂点、とされている。これに呼応するのは、やはり「旅」で紹介されている、カステル・ティロロの礼拝堂の門の彫刻、そして、ボルツァーノのドォーモのアブシスのアーチのいくつかの彫刻で、それをのぞくと、ほかに残されていないらしい。

取材に訪れた3月、まだまだ、はだかんぼうのブドウ畑に先だって春を告げるかのように、桜やアーモンド、モクレンにレンギョウが花開いていた。あの日、やわらかな光に包まれていた小さな町テルメーノは、「ワイン街道」(Strada del vino)の拠点としても知られる。5月13日から、この週末12日までは一帯で「ワイン祭り」(vino in festa)も開催されており、きっと、たくさんの観光客でにぎわっていることだろう。

(堂内は一般撮影禁止のため、フレスコの画像はwikipediaより写真拝借)

Chiesa di San Giacomo a Kastelaz
Hans-Feur-Str. 8, Termeno

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10 giugno 2010
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by fumieve | 2010-06-11 08:18 | ほかのイタリア
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