先日のぞきに行った
ポルデノーネ無声映画祭、なかなか面白かったので、今日は朝から出かけてみた。
午前中は、前回のテアトロ・ヴェルディではなく、歩いて10分ほど離れたところにある、チネマゼーロ(Cinemazero)。
まず、そこで見た3本がこちら。
大学の若旦那
(清水宏、日本、1933、85’)
Moana
(Roberto Flaherty, 米、1926、96’)
東京の英雄
(清水宏、日本、1935、64’)
この3本は、「サウンド版」などと言われるもので、音楽や効果音などの一部は「音」として既に入っており、セリフのみが映像の合間合間に字幕で出るもの。技術的な詳細はわからないが、(完全に)無声な映画と、今の映画との間にあるものなのだろう。そういえばチャップリンの映画でも、このタイプと、完全無声と両方あったような気がする。
「大学の若旦那」は、醤油問屋の若旦那は大学でラグビー部の主将。家の仕事はさっぱりで、部活に色恋にと青春を謳歌している。父親は厳しく(ラグビーを「西瓜取りの真似」とか呼んでいるのがおかしい)、その自由奔放ぶりを苦々しく思う「敵」もいるのだが、従来の人の良さのために信奉者も多々あり、何があっても結局明るく切り抜けていく。
もう1本の「東京の英雄」、再婚家庭の家庭崩壊を描き「家族とは何か」を問う・・・というと、何やら現代にも通じるようだが、登場人物の名前や設定は違うものの、同じ藤井貢さんという俳優を主人公に、脇役も何人か同じ俳優さんが出ていて、おそらく清水監督の人気シリーズといったところだったのだろう。なので、途中からすっかり展開が読めてしまうのが難点だったが・・・。
「明日天気になあれ」同様、どちらもやっぱりたいへん倫理的、教訓的、道徳的で勧善懲悪。かつ、父権絶対ながら、家族が子どもを中心にあり、映画としても子どもの「役割」が非情に重要なのも同じ。娯楽であるはずの映画がこうなのだから、これぞまさに当時の日本の姿を現したものであり、求められたものなのだろうと思う。よくも悪くも、今の日本では失われた部分だろう。
その間にはさまれたMoanaは、サモアの島が舞台。森の漁、海の漁、食事の支度、木の枝を開いてのして「布」にしていくところ・・・と、原住民の日々の暮らしを撮ったドキュメンタリーか・・・と思ったが、途中で、それらが全て、Moanaという青年をめぐる、ある1つの行事のための準備であることが明かされる。
彼らの歌やセリフを「音」としてそのまま残し、字幕はセリフではなく、全体を説明するナレーションとして使われている。映像の状態がかなり悪いのが惜しまれる。今もある行事なのかどうか、いずれにせよ、人類の貴重な記録であるに違いない。
午後から、場所をテアトロ・ヴェルディに移して見た、
Privideniye, Kotoroye ne vozvrashchayetsya (Il fantasma che non ritorna/The Ghost That never Returns)
(Abram Room, ソ連、1930、99’)
ピアノ:Neil Brand
プロコフィエフのような、いかにも20世紀初頭のロシア音楽を思わせる、力強い不協和音で始まるピアノ。もはやこの、ピアノ生演奏というのが癖になるというか、やめられない、というか、ともかく、いい。
映像は、一見、高層住宅の中庭を思わせる、明るくモダンな作りの刑務所内。モノクロの画面の中を占めるコンクリートと鉄の存在が、これも20世紀初頭であることを意識させられる。
舞台は南米。ある日この刑務所に送られてきた終身刑のJoséは、どうやら政治犯らしい。だが、10年の牢獄生活ののち、たった数時間の一時帰宅を許されて、刑事に護送されつつ鉄道で旅に出る。
背景にあるのは、石油掘削所の労働者の決起であったり、どう見てもロシア人顔で「ホセ」に見えない主人公といい、100%ロシア。
劇場的な最初の場面、旅の途中で砂漠に放り出されてからのスケールの大きさ、そしてカメラワーク。
お茶の間目線で「絵草紙風」な日本の映画とまた全然違う、極めて「芸術的」な作品だった。
そのあとは、時代をさらに遡り、1910年代のフランスの短編特集。
Comici Francesi/ French Clowns (フランス短編喜劇特集)
Tartinette Rěve aux exploits de badigeon (仏、1914、8’)
La colle forte de titi (仏、1913、4’)
Tommy ětrenne son cor de chasse (仏、1911、4’)
Les Farces de Toto gate-sauce (Georges Hatot、仏、1905、4’)
Toto ne boira plus d’apéritif (仏、1911、4’)
La ruse de Willy (Joseph Faivre、仏、1913、8’)
Le 1er duel de Willy(Joseph Faivre、仏、1914、7’)
Zigott et l’affaire du collier (Jean Durand、仏、1011、9’)
ピアノ:Masterclasses allievo/aspirant
小難しいロシア映画のあとには、こういう軽くて笑える映画もまた楽しい。
土曜日の午後とあって、小さな子どもづれで来ている家族もあった。一番後ろの列で、ときどきケラケラ笑っている子どもたちの声を聞いて、よくできたものは、100年経ってもやはり面白いのだと思った。
9 ottobre 2010