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ヴェネツィア ときどき イタリア

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クリスマスの朝に

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水上バスに乗った。何日も前から降り続ける雨はやむ気配もなく、今朝は霧雨になっていた。

大運河のある停留所から1人、かなりお年をめされた女性が乗ってきた。

ここ数年、クリスマス当日は日本に帰っていたから、すっかり忘れていた(知らなかった)のだが、今日はヴァポレット(vaporetto、水上バス)の運行も大幅に減り・・・というか、多くの路線、区間が「終日運休」になっていた。
ふだん、カナル・グランデ(Canal Grande、大運河)を走る各駅停車1番も運休。急行2番がその代わりに少し多めに停まる、N(notte、夜、つまりナイトバスのこと)と同じ運行をしていた。(それなら最初から、「N」の表示をしてくれればいいのに、「2」と書いてあるからかえってややこしい)




クリスマスの朝に_a0091348_22475286.jpg


乗りこむ際、手を差し伸べた若い車掌さんに、
「あの・・・あの・・・向こうにね・・・(渡り)たい・・・の・・・だけど・・・」
「はい?どこですか?」
・・・何度か繰り返したあと、その女性の降りたい停留所は、今日は1日中停まらないところであることが判明した。
「残念ながら、今日、そこに停まる船はないんですよ。」
「わたしはね・・・そこに・・・行きたいの。」
「でも、停まらないんですよ・・・。」
「そこに・・・行かないと・・・でも・・・足が悪くて・・・」と、涙を浮かべる。

逆S字型の大運河を走る「1」番は、もちろん普通の路線バスなのだが、岸のあちら側とこちら側を、ほぼ交互に停まって、一種の渡し船的役割も果たしている。
大運河を越えるには、4つの橋(リアルト、アッカデミア、スカルツィ、「カラトラヴァ」)を渡るか、トラゲット(traghetto、渡し船)するか、あるいは、この1番を使う、という手がある。「水上バス」というと何やらモノモノしいが、実際は、小舟のトラゲットはもちろん、大きな橋を渡るのと比べても、ずっとバリアフリー。
その女性も、おそらくいつものように、「向こうへ渡る」つもりで乗ってきたのだろう。
ところが、目的の停留所は停まらない。そして、次の停留所ではあまりも遠すぎる。

「渡りたい、渡りたい」と、つぶやく彼女を、危ないから、と、とりあえず座らせ、車掌さんは運転席へと入っていった。

そして、特別に、本来は停まらないはずのその停留所に、彼女のために水上バスは停まった。
(アルバイトかもしれない)ちょっとイケメンなお兄ちゃん車掌さんは、もう一度座席まで彼女を迎えに行って、船から下ろして、降り場の向こうの、足元の安定している岸までゆっくりと送って、ひらりと走って船に戻ってきたのだった。

日本でいえば、元旦の朝のようなもの。お店も何もかも、ほとんどがお休みの中働く、水上バスやほかの公共交通機関、ゴンドラ漕ぎやタクシーの運転手、相変わらずの市の衛生職員のみなさん、そして数少ない、開いていたお店やレストランのシェフやスタッフ。
言うまでもなく、救急病院のスタッフなども。
それからもちろん、家の中で家族や友人のために忙しい1日を過ごしたお母さんやお父さん。この日仕事をした、すべての人々乾杯。

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25 dicembre 2010
by fumieve | 2010-12-26 17:42 | 日常生活
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