車窓の風景はどう見てもトスカーナあたり。みなさんがまだまだ優雅にテーブルでワイングラスなど傾けていらっしゃる間に、「あと10分でヴェネツィア・サンタ・ルチア駅到着」のアナウンス。・・・ありえない。
イタリアの特急、アルタヴェロチタ(Alta velocità)の食堂車は、終着駅到着30分前にはクローズするし(だってレストランのスタッフだって、全部片付けたあと、到着時には乗客と同じタイミングで降りるのだから!)、サンタ・ルチア駅10分前のアナウンスがあるのは、ヴェネツィア・メストレ駅を過ぎてからだから、周りはすでに完全に水。
そもそも、あの電車に乗れるのはミラノからで、パリから来るのは夜行列車のみ。着の身きままなドレス一丁で優雅に到着なんてありえない。
・・・なんて、いちいち細かいことにつっ込んではいけないのはわかっている。
これはアメリカの娯楽映画であって、ドキュメンタリーではないのだから。
ヴェネツィアで約2カ月かけての撮影。その前の大量のエキストラ募集から、今をときめく超大物スター、ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーがヴェネツィアに滞在して、各地でロケをしていたので、地元でも大いに盛り上がった(?)「The tourist(邦題は「ツーリスト」)」。
確かに背景はヴェネツィアだし、ジョニーがアンジーにモーターボートに拾われるのは実際に駅前の広場。
つっ込んではいけない、と、わかってはいる、だが、いつも通り観客の少ないヴェネツィアの映画館の中で時々、あちこちで「うっ」とか「えっ」とか、声が漏れる。
背景としてのヴェネツィアが、あまりにも切り刻まれて過ぎている。ここからあそこへ、ありえないツナガリが多すぎて痛々しい。それならいっそ、すべて架空にすればいいのだが、ヴェネツィア、どこも同じように見えていて、実は個性のある建物や光景が多いから、そのありえなさが目についてしまう。
・・・ストーリーについては、一応「ミステリー」なのでここでは語るまい。
それでも、ジョニー・デップかアンジェリーナ・ジョリーか、あるいはほんの少しでもいいからヴェネツィアの映像を見たい、そういう人には十分に楽しめるだろう。
27 dicembre 2010