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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「カヴァッレリーア・ルスティカーナ」&「道化師」、カターニア、ベッリーニ劇場

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その日はあいにくの雨だった。
ごちゃごちゃとした、1人ではあまり歩きたくないような細かい道の間に、突然現れるすっきりと明るい空間。
ドォーモをはじめ、市内の主な建物は、地元の溶岩石を使った白黒のツートンが多いから、その明るいレンガ色の石のファサードは、それだけでちょっと特殊な高揚感に包まれている。2階部分から漏れる照明がキラキラと輝く、その建物の前に、タクシーが次々に停まっては、人を吐きだして行く。

シチリア第2の都市、カターニアのマッシモ・ベッリーニ劇場。
アンドレア・スカラの設計を元に、カルロ・サダが完成させたこの美しい劇場は、1890年5月1日に、ベッリーニの「ノルマ」で完成を祝った。




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あの光の源は、この大広間。
中は典型的な馬蹄型のオペラ劇場で、廊下などの作りは、ミラノのスカラ座によく似ている。だが、小ぶりなわりに比較的ゆったりとした作りといい、ガラスの開口部の大きいこのサロンといい、なんとも心地よい。ボックス席もかなりゆったりめで、後ろの席でも十分に舞台が楽しめるのはすばらしい。(ヴェネツィアのフェニーチェ劇場は、ボックス席の後列はほとんど舞台が見えない)

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そして、圧倒的に観光客の多いフェニーチェ劇場やスカラ座と違い、「劇場は社交場」の原則が、まだまだしっかり生きているのだろう。失礼ながら、ふだん、カターニアの町の中ではあまりお見かけしないような紳士や、毛皮をまとった淑女が、きちんとおしゃれをして、つまり、ちょっとしたスーツやワンピースにどっしりとアクセサリーをつけて、お互いに挨拶を交わしている姿は圧巻で、決して派手なドレスではないのがポイント。意外と若いカップルなども多く、彼らもまた、シックなスタイルなのが印象的。
もちろん中にはそうでない人もいるのだが、場にしっくり馴染んでいるのは、やはり前者だ。

単なるミーハーとしては、いつかここで、「ノルマ」を観てみたい、と思っていたのだが、「ノルマ」ではなく、「カヴァレリーア・ルスティカーナ」と「道化師(パリアッチ)」を観る機会を得た。「カヴァッレリーア・・・」も舞台はシチリア。これはいつか、パレルモで観てみたい、と思っていたもので、ちょっと違う形ながら夢がかなったことになった。

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前者は初演が1890年、舞台はシチリア、ときは復活祭。後者は初演が1892年、南イタリアのカラブリア地方の聖母被昇天の祭日(8月15日)が舞台。おまけに、前者が全1幕70分、後者が全2幕70分、といずれも短いこともあって、違う作曲家のもともとは全然違う作品であるにも関わらず、2つセットで上演されるのが定番になっている。
ところが私の場合、ヴェネツィアのフェニーチェは、あえてこれらをそれぞれ別の組み合わせで上演するという天の邪鬼な企画を実現してくれたから、この組み合わせで舞台を観るのは実は初めて。

カヴァレッリア・ルスティカーナ(CAVALLERIA RUSTICANA )
音楽:ピエトロ・マスカーニ
指揮 MAURIZIO ARENA
監督 GIULIO CIABATTI
舞台 Salvo Tropea
衣装 Anna Biagiotti
照明 Iuraj Saleri

Santuzza Giovanna Casolla
Lola Sarah Punga
Turiddu Rubens Pelizzari
Alfio Alberto Gazale
Mamma Lucia Loredana Megna

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夫トゥリッドゥが元の恋人、ローラとよりを戻しているのを嘆くサントゥッツァ。ローラへの愛を歌うトゥリッドゥ。美しく、だが重なることのないソロで幕を開ける「カヴァッレリーア」。
舞台向かって左は古い教会のファサード、右はトゥリッドゥの母の家。カターニアの、いや、シチリアの、どこの町と言われても違和感のないオーソドックスなセットに、町民たちの姿、ベストにズボン、または上着とズボンの襟を両手でつかみ、頭にはハンチング帽のおじさんたちは、これまたシチリアを舞台にした映画そのままで、コーラスというよりは、そのあたりで集めたエキストラと言われても驚かないくらいしっくりきている。
そして、全編、ひたすら悲しい。夫を求めるサントゥッツァ、そんな妻にもはや愛情を持てないトゥリッドゥ。愛する妻ローラに裏切られていたことを知る馬車屋(カヴァッレリーア)のアルフィオの悲しみと怒り。裏切りの代償はただ1つしかない。
愛と死と、いや、愛か死か。そんな人の運命を嘆き悲しみつつ、抵抗せずに受け止める人々。これぞシチリア・ロマンの王道たるストーリー、おおげさなまでの音楽と叫び声にも似た激しい歌が、ここならば、このお話の中ならば納得してしまう。心にぐさっとくるのは、やはりシチリア・マジックだろうか。

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道化師(PAGLIACCI)
音楽:ルッジェーロ・レオンカヴァッロ
指揮:MAURIZIO ARENA
監督:GIULIO CIABATTI
舞台:Salvo Tropea
衣装:Anna Biagiotti
照明:Iuraj Saleri

Nedda Kristin Lewis
Canio Rubens Pelizzari
Tonio Alberto Gazale
Peppe Michele Mauro
Silvio Fabio Previati

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セットはほとんどそのまま、一見、「喜劇」として始まる「道化師」。
この組み合わせで観たのは初めてなので、それが標準なのかどうかはわからないが、「カヴァッレリーア」で妻を裏切った男(テノール)が、ここでは妻に裏切られる男に反転する。人生(といっても、同じテノールとはいえ、まったく別の2人の男を一晩で演じているだけだが)、皮肉なもの。不倫とはいえ、愛する人への思いを高らかに歌っていた男、そしてその愛のために殺される運命を嘆いた男が、今度は一転して、裏切られたものの苦悩を歌いあげる。その転換は見事で、そして、その前を知るからこそ、後の悲痛がより重く、つらく響く。自業自得。いや、さっきの「彼」は、今の「彼」ではないのだと思いつつ、その因果応報のような(舞台上の)展開に引き込まれる。
「カヴァッレリーア」では、サントゥッツァ、トゥリッドゥ、アルフィオの3人がそれぞれ対峙し、絡み合うのが魅力だが、「道化師」はほとんど、この道化師カニオの独壇場と言っていい。

そして、愛と裏切りの結果は・・・やはり死しかない。殺される運命を悟るのもつらかったはずだが、殺す側に立つのもまた、ずいぶんとつらいもののようだ。

(舞台の写真は劇場の公式サイトから拝借した。http://www.teatromassimobellini.it )

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2 marzo 2011
by fumieve | 2011-03-03 05:06 | 聞く・聴く
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