春分の日。イタリアでは「春初日」と言われるこの日に、せめて、春のこの日にふさわしい賑やかで晴れやかなモザイク、もしかしたらローマで私がもっとも好きな教会かもしれない、この教会を紹介したい。
(この原稿は、数年前にまとめたものに、加筆・訂正を加えています)
「モザイクの旅」シリーズ
晩秋~ローマ
1:
サンタ・コスタンツァ廟
2:
サンタニェーゼ教会
3:
サンタ・プデンツィアーナ教会
4:
サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂
5:
サンタ・プラッセーデ教会
12世紀に入って、もはやビザンティンからもカロリングからもその影響から離れ、ここローマでは、再びローマ独自のモザイクが発展してくる。その代表的な例が、サン・クレメンテ教会だろう。
「わたしは(ぶどうの)幹である。あなたがたは蔓である。」というキリストのことばをそのまま表したものだという。
泉にアーカンサスの葉が生い茂り、そこから十字架が立ちあがる。いや、そこにキリストがいるのだから、これは磔刑図なのだ。ただし、目をつむったキリストは十字架より小さく、あたかも埋め込まれた模様のように静かにそこにいる。やはり十字架内に、12羽の鳩が埋め込まれているのは、12人の使徒を表しているらしい。
同じ泉から、つる草が何本も伸び、いくつもの渦を作って十字架を囲む。渦の中、つるの先には色とりどりの花、つるの合い間には鳥たち、4人の福音書家や教父。泉の下では2頭の鹿がのどを潤し、その両脇には、養鶏など日常生活の場面が並ぶ。
地は金色だけれども、そのつる草の繊細さと多彩さとで、荘厳というよりはむしろ軽やかな印象を受ける。そして、生活力あふれるシーンといい、その自然の豊かさといい、ビザンティンでもなければカロリングでもない、まさに古代ローマの伝統そのものと言っていいだろう。
この教会がいかにもローマらしいのは、モザイクだけではなくて、そのユニークな構造にある。古代ローマの住居の上にキリスト教会が建ち、現在「教会」として形が見えているのは、さらにその上に建ったもの。現在も地下に、それらの跡が残っている。
入場料を払えば地下を見学することができるのだが、それはまた別の機会に譲ることにする。
(モザイク詳細写真は、wikipediaおよびwww.mosaici.org より借用した。それ以外、本堂内写真は2002年に撮影したもの。2010年秋に再訪した際には、堂内すべて撮影禁止になっていた。)
21 marzo 2011