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ヴェネツィア ときどき イタリア

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まるごとヴェロネーゼ、サン・セバスティアーノ教会

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その名も「長い路地」(Calle lunga)、ずっと歩いていくとその路地の終わり、橋の向こうに決して大きくない教会の白いファサードが見える。
ヴェネツィアに数多くある教会の中では、外観もシンプルなルネッサンス様式だからむしろ地味。
そして、サンマルコ広場やリアルト橋など、いわゆる観光スポットから少し外れているためだろう、訪れる観光客はそう多いほうではないが、逃すには惜しいのがこのサン・セバスティアーノ教会(Chiesa di S.Sebastiano)。

ヴェネツィアで美術史を学ぶ学生たちの間では、「好きな教会」というと、フラーリ教会(正式には、サンタ・マリア・イン・グローリア・デイ・フラーリ、S.Maria in Gloria dei Frari、栄光の聖母フラーリ大聖堂)を挙げる人が多かったように思う。典型的なヴェネツィア・ゴシック建築の大聖堂、内陣にはティッツィアーノの「聖母被昇天」が輝くほか、ジョヴァンニ・ベッリーニの多翼祭壇画、ドナテッロの彫像・・・と、ヴェネツィアを代表する芸術家たちの作品の結集で、それはまるで美術史の教科書のよう。

だが私のお気に入りは、サン・マルコ大聖堂は別格として、なんといってもこのサン・セバスティアーノ教会。
サン・セバスティアーノ教会の魅力は、フラーリのような言ってみれば「マルチ」な、教会がそのまま美術館、というのとは違う。
なぜなら、サン・セバスティアーノの内部の装飾は、ヴェロネーゼ一色だから。




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側廊のない、だから中に区切りのない四角い空間の、まず壁を埋めるだまし絵は、ヴェロネーゼによるフレスコ画で、聖人たちや預言者、そしてちょっと見えづらいが、両脇2階部分には、聖人セバスティアーノの殉教の場面などが描かれている。

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天井は旧約聖書より、ヴェロネーゼによる「エステルの物語」。

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後陣の祭壇画はもちろんヴェロネーゼで、「栄光の聖母子と聖人たち」。

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その後陣に向かって左、パイプオルガンの扉もまた彼の手によるもので、扉が閉まった状態が「幼子イエスの寺院参拝」、開いた状態が「病人を癒すイエス・キリスト」。

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さらに、そのオルガンの下をくぐるように抜けて右手奥の聖具室(sacrestia)。天井、中央の「聖母戴冠」を、4人の福音書家などが囲んでいる。

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一般に、ヴェロネーゼと言って一番知られているのは、パリのルーヴル美術館にある「カナの婚礼」だろうか。

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ヴェネツィアの中ではなんといっても、パラッツォ・ドゥカーレの「大評議員の間」の天井を飾る、大きな楕円型の「ヴェネツィアの勝利」だろう。

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ヴェネツィア「共和国」の栄光を祝福する、華やかかつ壮麗なヴェロネーゼの絵は、とくにナポレオンの好みだった。「カナの婚礼」が現在ルーヴルにあるのはもちろんそのため。
パラッツォ・ドゥカーレは持ち出しの難を逃れたほか、このサン・セバスティアーノ教会も1810年にナポレオン政府に一旦は差し押さえにはあっているものの、幸い手をつけられずにそのまま残された。

ヴェネツィア・ルネサンスを代表する巨匠の1人、パオロ・ヴェロネーゼの全面プロデュースによる内装は、建築家パッラーディオとのコラボで、世界遺産に指定されている、ヴィッラ・マゼール(Villa Maser)もあるが、

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教会でここまですべて請け負っている例は珍しい。
カツ、ヴェネツィアは海の上に人工的に建てられた町という特殊事情のため、壁の漆喰に顔料を埋め込んで描くフレスコ画は当時から、はがれやすいのが問題だった。
それにも関わらず、これだけの内装が、ほぼそのまま残されているのはほとんど奇跡といってよい。

そういえば、ずいぶん長いこと、サン・セバスティアーノに行ってなかった。
大学の、文学部の授業が主にここに隣接した校舎で行われるから、ヴェネツィアに来て最初の数年は、教会の中へこそ毎日は入らないものの、ともかく毎日毎日、1日の大半をこのエリアで過ごしていたのに。
久しぶりに、サン・セバスティアーノのヴェロネーゼを見よう、と思って行ったら、なんと中は大々的に改装工事中。辛うじて主祭壇の祭壇画と、聖具室は見ることができるが、壁も天井も、見事に足場に覆われていた。工事は、あと5カ月ほどかかるらしい。

(堂内撮影禁止。堂内写真は公式サイトwww.chorusvenezia.org、 1つ1つの作品の画像についてはwww.wga.hu より拝借した。)

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24 marzo 2011
by fumieve | 2011-03-25 09:42 | ヴェネツィア
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