これまでに少なくとも、2回は行ったことがあるはずなのだが、正直のところ、なぜかほとんど記憶がない。いや、ミケランジェロの最後の作品、「ロンダニーニのピエタ」はこの博物館のハイライトであるはずだし、見た覚えも確かにある。そう思って薄い記憶をたどってみると、以前行ったときには、なんだか工事中か何かであまりきちんと見学ができなかったような気がする。
スフォルツァ城博物館(Musei del Castello Sforzesco)は、図書館や資料室も含め、実に14もの施設から成り立っている。その中で、もっともよく知られ、一番多くの見学者を集めているのは何と言っても古代美術館(Museo d’arte antica)だろう。
「古代美術」というとつい、エジプトやギリシャなどを思い浮かべてしまいがちだが、ここでは主に、中世から盛期ルネサンスまでのミラノ内外の美術、それも彫刻を中心に展示している。(ちなみに、エジプト、および先史&原始時代の博物館も別にある。)
というわけで、チケット売り場からそのままオープンスペースの展示室は、いきなり中世、ロマネスク彫刻から始まる。
ロンバルディア地方の12-13世紀の、教会の柱頭。
おなじみの二股人魚のほか、聖書の場面とは思えぬすばらしい表現力についついワクワク。
一方、チヴィダーレの「お人形さん」を思わせる、丸彫りに近い、素朴だがエレガントなこんな彫刻も。
そしてゴシックへ。同じ彫刻が、明らかに繊細で華やかに、人は縦長でシャープになっていく。
配置の都合か、もう一度ロマネスクに戻り・・・
タピスリーの間を抜けたところが・・・
「板張りの間」。
天井一面を覆う植物の装飾は、なんとレオナルド・ダ・ヴィンチによるもの。当時の城主、ルドヴィーコ・イル・モーロの依頼で1498年頃に描いたものだそう。その後、一度は壁全体を塗り込められてしまっていたものの、1893年に偶然、漆喰の下から見つかったという。
そして時代はルネサンスへ。
レオナルドの部屋だけでなく、この建物、それぞれの部屋に壁や天井の装飾が残っていて面白い上に、展示がすばらしい。
また広くて明るい空間、(数が多すぎず)適度な展示も好ましい。その上、かなり驚いたのは各部屋の解説書に、日本語の翻訳もあること!
再び、あっと声をあげたのが、「公爵の礼拝堂」。1467年、複数の画家、芸術家による壁から天井への装飾は見事。空色の背景は一見ジョットの名残を思わせるが、しなやかなパステルカラーの天使たちはむしろ、ペルジーノのフレスコに近い。後期ゴシックからルネサンスへの過渡期の代表作の一つと言って間違いないだろう。一方、聖人の並ぶ壁の背景は金色、それもよく見ると漆喰で細かい模様が入っているという芸の細かさ。こちらはむしろ、聖人たちのやわらかい表情も含め、シモーネ・マルティーニなどに近い。後期ゴシック、花のゴシックの傑作と言える。
武器の間などを抜けていよいよ・・・。
ミケランジェロ最後の、未完成の「ロンディーニのピエタ」は壁で仕切られた、それだけのための空間に置かれていた。
それはこうして写真を撮ったりするには便利だけれども、何か少し、さみしいような気がした。ほかの彫刻たちはもはや時代や場所を越え、ここでこうして一緒に展示されて呼応しつつ新たな空間を作り上げているのに、このピエタだけは、無骨なコンクリートの厚い壁で隔離されており、それはまるで、私にはお墓の中に閉じ込められているように見えた。
Museo d’Arte Antica
Musei del Castello Sforzesco
www.milanocastello.it
29 agosto 2011