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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「ティツィアーノと近代風景画の誕生」展、ミラノ

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パラッツォ・レアーレ
5月20日まで

Tiziano e la nascita del paesaggio moderno
Palazzo Reale, Milano
16 feb - 20 mag 2012
www.mostratiziano.it

イタリア語で現在、「風景」を表す”paesaggio”(パエザッジョ)という単語は、ヴェネツィアを代表する画家ティツィアーノが、1553年にスペイン国王フェリペ2世に宛てて、依頼作品に添えて送った手紙の中で初めて登場する。
これが、やがて近代の「風景画」というジャンルが登場する初めの第一歩となった。




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中世からルネサンス初期まで、絵の中の「風景」はあくまでも、何らかのシンボルやアレゴリーであり、それそのものの美を愛でるためのものではなかった。昨日、シエナの「よい政府の寓意と効果」の中でも触れたように、そもそも「自然」そのものは美の対象として考えられていなかったこともある。
だが、あくまでもシンボルとしてではあったが、宗教画の中に、自然の美しい風景を取り入れたジョヴァンニ・ベッリーニ、聖母子像ほか多くの祭壇画に、生まれ故郷コネリアーノのお城を描きこんだチーマ・ダ・コネリアーノ、また、同じように、故郷ピエーヴェ・ディ・カドレで朝晩眺めたであろうドロミテ山脈の風景をしばしば背景に取り入れたティツィアーノと、15世紀後半から16世紀にかけて、ヴェネツィアの画家たちが「風景」に注意を払うようになったのは、偶然のできごとではない。

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「地中海の女王」と呼ばれ、隆盛を誇ったヴェネツィアだが、15世紀末のアメリカ大陸発見により、スペイン、ポルトガルが新航路に活路を見いだして台頭すると、覇権を失ったヴェネツィアは海から、陸に目を向けるようになる。
海上貿易と戦争で反映してきたヴェネツィアだが、16世紀に入ると、ヴェネツィアの貴族たちはこぞって、内陸で新たに農業に乗り出すようになる。パドヴァからヴィチェンツァ、またトレヴィーゾなど、ヴェネト州全体で何千にものぼる「ヴェネトのヴィッラ」とよばれる貴族の屋敷群は、彼らの別荘であると同時に、農業経営の拠点でもあった。海は何よりも、戦いの場であり、挑戦の場であった彼らにとって、穏やかな緑の光景は目にも体にも優しく感じられたのかもしれない。目新しい田園風景を「美しい」と感じ、楽しんでいたであろうことは、今でも残る数々のヴィッラを見ても十分に察することができる。

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だから、コンセプトとしては大変すばらしいし、タイトルにもなっているティッツィアーノのほか、ベッリーニ、ジョルジョーネ、ティントレット・・・と、それこそヴェネツィア派を代表する大物の名前が並ぶのだが、肝心の展示作品はというと・・・。大物たちの名前がついている作品は、正直、少なくとも代表作品の画集などでは見たことがない、「え?ほんと?」というもの、まあ、たとえ「ほんと」だとしても、明らかに質の劣るものがほとんど。
あるいは、中にはジョルジョーネの「幼子モーゼの奇跡」など、良品もあるのだが、ジョルジョーネの風景といえば、なんといっても「嵐」だと思うし、だいたいこの作品、先日もほかの展覧会で見たばかりだし、どうやら親善大使的扱いで、あちこちに貸し出されている模様。ロレンツォ・ロットの「スザンナ」も同様。あとは、これも正直のところ、あまり聞き慣れない画家の、うーーーん・・・という作品が多い。

これが例えば、ジョルジョーネの「嵐」(ヴェネツィア、アッカデミア美術館)、ティツィアーノ「ヴィーナスとアドニス」(マドリッド、ブラド美術館)などが出ていたら全く違ったものになっていたと思うが・・・ともかくコンセプトがいいだけに、内容の中途半端さが残念。

いや、それともやっぱり、そんな大作が並んだらそれはやっばり全く違った企画展になるのであって、これはこれで、こんなもの、なのかもしれない。

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24 mar 2012
by fumieve | 2012-03-25 10:42 | 見る・観る
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