ブログトップ

ヴェネツィア ときどき イタリア

fumiemve.exblog.jp

ヴェネツィアのレースの歴史をたどる~レース博物館、ブラーノ

a0091348_17164436.jpg


(なでしこ、残念でしたね・・・)

ブラーノ島から水上バスで5分ほど、トルチェッロ島のサンタ・マリア・アッスンタ聖堂の聖母子像をご存知だろうか?
須賀敦子さんが、「これだけでいい」と言いきった、金の地の中に浮かぶ聖母の濃紺のマント、よく見ると、その縁取りに金色のレースが使われている。11-12世紀のガラスのモザイクで、これが「絵」としてヴェネツィアに残る、最も古い例の代表とされている。




a0091348_17173013.jpg


手編みのレースというと、ベルギーやフランスの、たくさんのボビン(糸巻き)を使うボビン・レースが主流だが、ヴェネツィア、ブラーノのレースは、ニードル・レースと言って、針を使って、1本の糸を結び目をつくって仕上げていくもの。簡単に言うと、ボビン・レースは複数の糸を使って「編んで」いくのに対し、ニードル・レースは、1本の糸で「縫って」いく感じ。

a0091348_17192262.jpg


ヴェネツィアでこのニードル・レースが発達するのはルネサンス時代で、さまざまな手法を組み合わせて複雑なパターンを作り出すことができるようになり、貴族や上流階級の女性の趣味として大いに発展した。最初は幾何学的なパターンが主で、襟もとやハンカチの縁取りにレースが使われた。

a0091348_17221235.jpg


15世紀に入って、レースの追い風に一役買ったのが出版ブーム。欧州で活版印刷が発明されて以来、ヴェネツィアでは出版業も重要な産業の1つとなり、レースや刺繍のデザインやその編み方、縫い方を説明する本も次々に出版された。
幾何学的パターンからアラベスク模様、ロゾーネ(Rosone、薔薇窓の意味、円形の中に細かい模様を編み込んだもの)、やがて草花や動物、グロテスク模様などと発展していった。
当初は上流階級の女性のたしなみだったものが、16世紀後半には、ファッションやインテリアでのレースの大流行に伴い、修道院や養護院、あるいは専門の工房で多く生産されるようになる。

a0091348_17225619.jpg


17世紀、レースは黄金時代を迎える。男性も女性も、聖職者もそれ以外の職業でも、頭からつま先までレースを纏うようになると、フランドル地方やミラノ、ジェノヴァでは、ボビン・レースに特化するが、ヴェネツィアはニードル・レースで他の追随を許さず、欧州中の羨望を得るようになる。フランス王ルイ14世が、ヴェネツィアの職人を引き抜いて、手元で専用のレースを作らせたほど。
だがヴェネツィアはさらに微細で立体感のある、雪の結晶のようなレースを開発して対抗した。

a0091348_17205948.jpg


17世紀前半には、リアルでヴァリエーション豊かな草花が渦を巻く、合い間に小さな動物を埋め込んだモチーフが発展。17世紀後半に入ると、インドの花模様の影響を受け、さらに最後の四半世紀になると、それらがより形式化、縮小化していった。

a0091348_1723324.jpg


18世紀に入ると、フランドル、またはフランス風の薄いタイプレースが流行の中心となり、ヴェネツィアのニードル・レースは、極薄の地に花を散らしたようなモチーフを編みだした。また、ヴェネツィアでもボビン・レースも作られるようになるが、主に黒で、カーニヴァルの際の薄いショールとして使われた。また、イギリス風のスタイルが導入され、チーフやタイなどに向く、細かい模様のレースが好まれるようになる一方、フランスやアメリカから、レース離れが始まった。
19世紀初め、ナポレオンとともにレースが再び脚光を浴びる。イギリス、フランス、ベルギー、スペインでは、一定の生産を続けていたが、ヴェネツィアでは、安価な機械生産との価格競争を強いられ風前の灯となってしまう。
だが、同世紀最後の四半世紀になり、再びレースが再評価され、官民一体となって過去の財産の保護、保存に目を向けるようになる。1872年、次世代の人材育成のため、そして地域産業活性化のために、サヴォイア家のマルゲリータ王妃の名の下に、ブラーノにレースの専門学校が開校される。学校開設に尽力したアンドリアーナ・マルチェッロは、古いレースやそのパターンの収集にも努めたという。

a0091348_17244439.jpg


a0091348_1724840.jpg


今、この博物館となっているのが、かつてその学校だったところで、1970年代に閉校したあと、1981年より同博物館として一般に公開されている。数年前より改装工事を行っていたが、2011年6月にリニューアル・オープンした。

a0091348_1725273.jpg


博物館内では、16世紀から現代までの貴重なレースを、時代を追って展示。スライド式のガラスケースは、見学者が多いとやや面倒だが、あまり大きくないスペースの中で、少しでも多くのレースを展示するためと、何よりも、レースそのものの保護を重視してのものと思われる。
ヴィデオやパネルで、ニードル・レースの詳細を解説しているほか、館内で、ブラーノ島のおばあちゃんやおばちゃんたちが、実演しているのを見学することができる。(8月は(たぶん)夏休み)

a0091348_17255946.jpg


(館内撮影禁止のため、写真は下をのぞいて、公式サイトなどから拝借)

a0091348_17264398.jpg


Museo del merletto
Burano
http://museomerletto.visitmuve.it/

10 agosto 2012
[PR]
by fumieve | 2012-08-10 17:31 | 見る・観る
<< クロアチアの旅・14~ロヴィニ... ビエンナーレ2011(回想)・... >>