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ヴェネツィア ときどき イタリア

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20世紀を代表するヴェネツィアの建築、ネゴツィオ・オリベッティ

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ヴェネツィアの観光の中心地、サン・マルコ広場を囲むアーケードの一角にひっそりと、だがとても美しい、ちょっと変わった博物館がある。



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ネゴツィオ・オリベッティ(Negozio Olivetti)。

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オリベッティの店、という名の博物館は、その名の通り、タイプライターで知られ、かつてイタリアを代表する企業の1つであったオリベッティのショールーム。
1956年、ヴェネツィア出身の建築家、カルロ・スカルパは「オリベッティ建築賞」を受賞。57年に同社よりヴェネツィアの旧政庁の一角を使ったショールームの設計を依頼され、翌年完成した。
スカルパは、ヴェネト州ポッサーニョのカノーヴァ彫塑館をはじめ、ヴェローナのカステルヴェッキオ博物館などイタリア各地で、歴史的建造物をシンプルで機能的な、現代的な博物館に生まれ変わらせた。ヴェネツィアでは、アッカデミア美術館、コッレール美術館などの内装のほか、ビエンナーレ・ジャルディーニ会場内のベネズエラ館クエリーニ・スタンパーリア美術館も手がけている。

開館当時から絶賛を浴びていた同店だが、やがてオリベッティ社の凋落とともに、1997年に一旦手放されたあとは、ふつうの土産物店として使われていた。が、修復期間を経て、2011年にヴェネツィアの文化を語り継ぐ歴史遺産の1つとして、ふたたびその本来の姿が公開されることとなった。現在は、FAI(Fondo Ambiemte Italiano)という、一般から賛同者を集めて環境遺産の保護をすすめる財団(イギリスのナショナル・トラストのイタリア版のようなもの)がその運営、管理を一任されている。

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まず先に断っておくと、きっちりと直線で構成された空間は、ふつうに自動設定で写真を撮るとどうしても歪みが出てしまう。(縦横がまっすぐでないのは、やはり撮り手の問題だが。)下手な写真を載せてしまうのは非常に心苦しいのだが、やはり下手は下手なりに紹介しておきたい。
ちなみに、内部の撮影は有料。とっても、たった2ユーロだから、それで撮り放題撮らせてくれるなら悪くない。チケット代は別だが、FAIの活動への寄付だと思えば、それでも少ないようなもの。

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スカルパの建物には、突発的な段差やでっぱりなど、ちょっとした「遊び」が多いから、現代の基準からすると全くバリアフリーでないし、足元に気をつけて歩かないと実は危ない。階段にも手すりもストッパーもないことが多いし、私のように、呆然と口をあけて見学していると、後ろ向きに転げ落ちる可能性だってある。

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だが、何と言ったらいいのだろう?あ、やっぱり。スカルパだからね。さすが天才。おもしろ〜い。と思える、何か強力な魅力がある。

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直線と正円を使ったシンプルなライン。効果的、かつ印象的な明かり取りの窓。異素材混合はもちろん、同じ大理石の表面を、一部は鏡面に磨き、一部はあえてごつごつのまま残すことによる「デザイン」。シンプルなようでいて、実はネジ1つ、ディティールまで凝りに凝った設計は、施工費用もハンパではなく、スカルパの作品は、「『スカルパ』だからこそできたものばかり」と、専門家の友人も言っていたっけ。

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例えば床1つとっても、サン・マルコ大聖堂の中の、荘厳なモザイクにヒントを得たモチーフを現代的でかわいらしいソリューションに転換。それも、入口とホール、奥の部屋、と色と大きさを変えてアクセントをつけている。漆喰の白い壁は、真白でなく、あえてレトロ調に。

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なんとなく和風?と思えたら大正解。スカルパは大の日本建築ファンで、茶室をはじめとする日本の伝統建築を研究した結果、こうしたモジュール仕立てのシンプルな空間を作ることに成功した。

(蛇足ながらスカルパは、1978年になんと日本訪問中、仙台で階段で足を踏み外して亡くなったらしい。だから、ここでうっかり私が階段から転げ落ちても、「おあいこ」かな、と思ったり。もっともスカルパほどの天才に、「おあいこ」などと言うのはずうずうしい限りだが。)


今でこそイタリアでも、ワードローブなどの収納空間を中心に、引き戸がおしゃれなスタイルとして定着してきたが、50年以上も前に、引き戸型の窓と、紙こそ貼っていないものの、この障子風の明かり隠し(?)を作ったのは、やはり日本の建築にそれだけ傾倒していたからこそ。

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博物館という、実際にはその中のものを見せるための、あくまでもお膳立てでしかない建物と違って、ここは、もちろん本来はオリベッティのタイプライターのお膳立て、であったはずなのだけれども、その当時の、これまた博物館もののタイプライターたちとともに、ここは別名「スカルパ」博物館と言ってもいいほど、スカルパの魅力が直に詰まっている。

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生演奏を競い合う優雅なカフェ、きらびやかなガラス・ショップや宝飾店の並ぶ中、ガラス張りだが薄暗く見える一角に、目を向けることもなく通り過ぎていく人も多い。あるいは、そのガラスの向こうに、古ぼけたタイプライターが並ぶのを、物珍しげに眺めていく人はいる。

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だが、ガラス戸を押して、中に入ったとたんに、すてきなスカルパ・ワールドが展開することに気付いている人はいったいどれだけいるだろう?
見逃すにはあまりにも惜しい。

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Negozio Olivetti
Piazza San Marco 101
Procuratie Vecchie Venezia
Tel. 041 5228387
www.negozioolivetti.it

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22 agosto 2012
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by fumieve | 2012-08-23 14:50 | 見る・観る
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