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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「ことばの家」にて

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乳ぶさおさへ 神秘のとばりそとけりぬ ここなる花の紅ぞ濃き
(「みだれ髪」より、与謝野晶子)

発表当時、少なからぬスキャンダルをよんだという歌を、どうしたご縁か大勢のイタリア人を前に音読し、拍手喝采を浴びた。




「ことばの家(Casa delle parole)」という、読書会のようなものをときどきやっているらしいことは、いくつか案内をもらったりして知っていた。一度くらいのぞきに行ってみようと思いつつ、タイミングが合わなかったりで毎回先延ばしにしていたのだが、友人から「よかったらのぞきに来ない?」とお誘いがあった。
いや、その1回も逃してしまったところ今度は、「一度参加してくれないか」と打診されてしまった。

話を聞くと、月に1回、テーマを決めて、そのテーマにそった文学作品(の一部)を複数選び、それを聴衆の前で音読するのだと言う。一種の読書会と言っていいのだろうが、面白いのは、いろいろな言語の作品を選び、それぞれ原語とイタリア語訳とを読み上げるのだそう。
いやいや、ヴェネツィア大学には日本語専科もあって、日本文学や日本語の先生もいらっしゃるのだから、全く専門でもない私がやるわけには・・・と尻込みしたのだが、作品や作家の解説などをするわけでなく、次々と読み上げていくだけ。作品はもう選んだから、ともかく母国語が日本語の日本人として、それをその場で読むだけでいい、と押し切られて、会場に臨んだ。

ヴェネツィア大学図書館の一室。決して広くない会議室だが、びっしりと満員御礼。学生らしき若い子も多いが、近所の方なのか、いろいろな年代、様子の人々もちらほら。そして何よりオーガナイザー達の独特のインテリな雰囲気。決して嫌みな意味でなく、何がどう違うのか説明できないのだが、これはもう、いかにもイタリアの文学系のインテリさんたち。同じヴェネツィア大学文学哲学部でも、美術史系の先生方とはまた全然違う雰囲気なのはなぜだろう?そして必ずしも学者ばかりでなく、よくよく聞くとお医者さんだのが混じっているのがまた、いかにも。
いかん・・・これはかなり場違いなところに来てしまった・・・と気付いても時遅し。こうなったらもう、「ガイジンの恥はかきすて」で挑むしかない。

本日のテーマは、(よりによって?)「性(sesso, sex)」。
ある意味、集めやすいテーマなのだろう、いつもより断然多いという25作品のリストと、抜粋のコピーが配布される。
冒頭は「カマスートラ」。これはオリジナルのサンスクリットが用意できなかったということでイタリア語訳のみ。次は中国詩。英語、ロシア語と対訳付き、ペルシア語は母国語担当者が来られなかったため、イタリア語訳のみ。・・・とそんな調子で次々と、小説や詩が読み上げられていく。
ゲーテにジェームス・ジョイス、トルストイにパゾリーニ。

聞いていると、イタリア語というのはほんとうに、音読に向いた言語だと思う。イタリア語原作のテキストはもちろん、翻訳でも、オリジナル言語以上に情熱的でアツく訴えかけてくるように聞こえるのは、私がイタリア語以外はわからないからだけでもないように思う。(英語は、手元のテキストを見ればまあまあ意味はわかるが、音として全く入ってこない。)
そしてまた、彼らの音読のうまいこと!ふだん家にいるときにラジオをつけていると、どうも朗読や戯曲を放送している番組がやたら多い気がして、しかも、その音だけの演技力というのか、迫力にいつも感心するのだが、ここはラジオのナレーターなどではなく、文学者かもしれないが声優ではないというのに、それはもう、声の演技がうまい。
そういえば、大学のイタリア文学の教授もかなりの「役者」だったっけ・・・。

一方で、この読書会の特徴でもある、他言語である原語での音読。友人は、「ともかくオリジナルの言葉の音を聞くことが大切」。と言っていた。意味がわからないまま聞くのは、果たしてどうなのだろう???と疑問だったのだが、聞いているうちに、そうか、なるほど、これはこれでいいんだ、と思えてきた。
もちろん、英語、フランス語あたりは原語だけでもみな笑ったり反応したり、きちんと言葉として理解している人が多いようだが、そうでない、中国語やアラビア語なども、そのイタリア語で意味を、原語で「音」を楽しんでいるようだった。
日本文学は非欧州圏の言語の中では結構普及しているほうだろうから、それだけに日本語を読む人間が渇望されていたのだろう。友人が選んでくれたのが短歌一首でこれ幸いと思っていたが、終わってから、「今度はぜひもっと長い文章をお願いね」と声をかけられた。
とてもディープな世界を見た気がした。これもまたヴェネツィア、なのだろう。

11 dicembre 2012
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by fumieve | 2012-12-12 10:49 | ヴェネツィア
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