ブログトップ

ヴェネツィア ときどき イタリア

fumiemve.exblog.jp

カラヴァッジョの師、「ペテルツァーノ素描展」

a0091348_619103.jpg


昨年7月、ミラノでカラヴァッジョの素描約100点が見つかったという報道が世界中を駆け巡った。イタリアを代表する画家の1人、カラヴァッジョは、「習作をせずに、直接キャンバスに絵を描いた」と言われており、彼の手による確実な素描は1点も確認されていない。そのカラヴァッジョの素描がほんとうに、しかも100点近くも発見されたとなれば、それはもう世紀の大発見と言っていいだろう。
ところが、発表の直後から、反論や批判も世界中で勃発。とくに、該当作品の所有者であるミラノ市も公に困惑を表明するという、異例の事態となった。



a0091348_6203311.jpg


スフォルツァ城の一角で開催中の、小さな展覧会。唯一の展示室に入ると、正面の壁いっぱい、ランダムに額がかかっている。現代アートのヴェネツィア・ビエンナーレや、写真展会場の展示を思わせるが、中は写真でも現代アートでもなく、16〜17世紀の素描(デッサン)。

資料によると、あまり知られていないのだがミラノ市立スフォルツァ城博物館は、15〜20世紀の素描、約28,000点を所有しており、イタリアでも有数の素描コレクションと言えるのだそう。そのスフォルツァ城素描室の中でも重要な核の1つをなしているのが、フォンド・シモーネ・ペテルツァーノ(Fondo Simone Peterzano)と呼ばれる素描群。

ベルガモ出身、若いころはヴェネツィアでティッツィアーノらの下で学び、ミラノで活躍した画家シモーネ・ペテルツァーノは、数世紀の間ほとんど忘れられかけていたが、1584年から88年に、若きカラヴァッジョがミラノで師事していたことが文献調査により「発見」されたことから、その名が知られるようになった。
スフォルツァ城のペテルツァーノ素描群は、サン・チェルソのサンタ・マリア・デイ・ミラコリ記念堂の財産管理委員会からミラノ市が1924年に購入したもの。同地は15世紀より、地元の芸術家や建築家ら集まる場所と知られていた。ミラノ市が購入したのは、委員会が彼らの素描を集めて大きな2巻のアルバムにし、革の装丁をつけて大切に保存していたもの。そこには15-18世紀のロンバルディア派の芸術家の素描が2,611点含まれていたが、その中でも核をなしていたのが、シモーネ・ペテルツァーノだった。

a0091348_6265349.jpg


大きな広間1つ使ったこの展覧会では、まず、ペテルツァーノという人とその作品にスポットを当てる。主な習作を、現存する作品、あるいは写真とともに展示。輪郭をはっきり描かずに、色と光の効果を生かして描く手法は、確かにヴェネツィア派の影響を感じさせるもので、その素描も線をきっちりと描くよりはむしろ、光による明暗を意識したものが多い。

そして、素描の展示としては異例と思われる、前述の壁いっぱいの展示。100枚以上の素描が、まずペテルツァーノ自身の手によるもの、工房によるもの、その他のロンバルディア派16-17世紀のもの、古代彫刻の模写、そして17世紀のアカデミー的模写と、それぞれグループに分けて壁にかかっている。それぞれの作品のキャプションは手前のスタンドにまとめ、作品同士をびっしりとくっつけて見せることにより、文字通りこの作品群を「一望」することができる。

実はこの、壁いっぱいの素描群が、昨年、「カラヴァッジョの素描」として取り上げられた作品たちらしい。
昨年の驚きのニュースを受けて、ミラノ市はすぐに、地元の専門家からワシントン・ナショナル・ギャラリーや大英博物館などの世界の名だたる素描の大家たちに声をかけ、この展覧会の企画を依頼した。つまり、学術的議論も、所有者であるスフォルツァ城(ミラノ市)への打診や通達も一切ないままに、突如「カラヴァッジョ作」だとして発表された素描群が、「カラヴァッジョのものではない」ことを証明するために。
考えてみたら不思議な話かもしれない。もし「カラヴァッジョ」だとすると、まず、作品の資産価値は桁を超えて跳ね上がるばかりか、スフォルツァ城博物館の見学者数も、図録や関連のグッズの売り上げだって何倍にもなるだろう。カラヴァッジョという名前の経済的、マーケティング的価値は、火を見るより明らか。
だが、ミラノ市と、地元や世界の学者たちは、それを否定することを望んだ。しかもほとんど、やっきとなって。その気概がすごいと思うし、本来なら当たり前のことかもしれない、だが、多くの関係者たちの間にその当たり前であるはずの「良心」がしっかり保たれていることを頼もしく、嬉しく思った。

カラヴァッジョについては、本人の素描がこれまで1点も確認されていないばかりか、若い頃の作品も残っておらず、かつ、ミラノ時代の仕事についてもほとんど解明されていない。ペテルツァーノの弟子をしていたことだけはわかっており、だからもちろん、その工房に、彼の手の、何らかの痕跡が残っている可能性は否定できない。
当初は、とんでもないスキャンダルとばかりに、ただ全面的に否定していた側も、ほとんど知られていなかったコレクションや画家に注目が集まり、研究が進むようになることは歓迎する、という方向に、ちょっとトーンが変わりつつあるようだ。この展示も、素描のアトリビューション(作者特定)とその方法論についての問題点を、ビジターに問いかける、そこに意識が置かれている。

a0091348_6213029.jpg


カラヴァッジョに関しては、個人的には特別に好きな画家でもないし、とくに詳しく勉強したこともない。だから完全に素人として見て、ごくごく単純に、これらすべてを、作品に似ているからというだけの理由で、いきなりカラヴァッジョの手によるものだとするのは、あまりにも短絡的すぎるように思う。
100枚の素描が、まるでデモンストレーション中の民衆のような、小さな1枚1枚がそれぞれ声を上げて、それが大きなパワーとなって訴えかけてくるような、すばらしい展示会場の写真がないものかとネット上で探してみたのだが、どうしても見つからなくて残念。(なんであれを紹介しないかな・・・)

a0091348_6285136.jpg


(作品画像は、上3枚は、http://video.unita.it よりAnsa、この上は、www.wga.hu、1番下は公式サイト より拝借)

シモーネ・ペテルツァーノとスフォルツァ城の素描
スフォルツァ城、宝物殿
3月17日まで
入場無料!

Simone Peterzano e disegni del Castello Sforzesco
Castello Sforzesco, Sala del Tesoro
15 dic 2012 - 17 marzo 2013
https://www.comune.milano.it/portale/wps/portal/CDM?WCM_GLOBAL_CONTEXT=/wps/wcm/connect/ContentLibrary/giornale/giornale/tutte+le+notizie+new/cultura+expo+moda+design/peterzano_castello_sforzesco_mostra

a0091348_6402493.jpg


21 feb 2013
[PR]
by fumieve | 2013-02-22 06:34 | 見る・観る
<< 雪のヴェネツィア もはや遠い思い出・・・レッチェ... >>