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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「マネ ヴェネツィア帰還」展、9月1日まで延長!

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いまでは代表作の1つに数えられる、マネが1863年当時サロンに出展して大スキャンダルとなった「草上の昼食」は、ヴェネツィア派の画家、ティツィアーノの「田園の合奏」に彼がインスピレーションを受けて描いたことは、案外知られていないかもしれない。白状すると私自身、ヴェネツィアに来て、ヴェネツィア派の絵画の勉強をするまで全く知らなかった。




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この展覧会は、エドゥアール・マネの2回のヴェネツィア滞在を通して、いかにヴェネツィア、とくにヴェネツィア派の絵画に影響を受けたかを検証する、というのがテーマ。英国の画家、ターナーと違って、マネがヴェネツィアを訪れていたこと自体、あまり知られていないかもしれない。(私も知らなかった。)

最初は1853年、20歳のころ。オーストリア支配下のヴェネツィアに、実質「島流し」にあっていたフランス人弁護士エミール・オリヴィエの案内でヴェネツィアを訪れたマネは、とくに16世紀のヴェネツィア絵画に強く惹かれた、という。
当時のヴェネツィアの写真のほか、現在のコッレール美術館の元となった、テオドール・コッレールの私邸のコレクション、壁にずらりと蒐集品が並んだ様子を正確に写し取った記録集も展示されている。これ自体、大変興味深いものだが、残念ながら、マネがこのテオドール邸を直接訪れたかどうかはわかっていないらしい。果たしてこの壁にあった、カルパッチョの「2人の貴婦人像」などを直接目にしたのかどうか・・・。

2回目は1974年、すでに画家として名の知られていたマネは、夫人とともにヴェネツィアへ到着した際に、現地の新聞の「著名人滞在リスト」に名を残している。

当時から、現在もルーヴルに所蔵されているくだんのティツィアーノの作品に、マネがインスピレーションを受けたというのは明白な事実として、イタリアでマネは、もちろんヴェネツィア派だけでなく、フィレンツェでも多くの巨匠の作品を吸収したよう。フィレンツェのフレスコ画や、あるいは素描を写したデッサンがいくつか、展示されている。

そして「草上の昼食」。
ラファエロの「パリスの審判」を写したマルカントニオ・ライモンディの銅版画が同室に展示されているが、これは、マネが「草上の昼食」の人物3人のポーズに転用したもの。(画面内、右下の3人に注目!)

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ただ、ティツィアーノを並べて鑑賞できないのは、つくづく残念。今回、オルセーからたくさんの作品が出展されているが、ルーヴルからは借りられなかったのだろうか・・・。

だが、次の部屋で、そんな思いも吹っ飛ぶ。

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マネの「オリンピア」。その右にティツィアーノの「ウルビーノのヴィーナス」が、それぞれその美しいヌードを競い合うように、ぴったりと並んでいる!

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こうして見て初めて気がつくのだが、この2作品はとくに、大きさもほとんど一緒。

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ポーズ、目線、白いシーツ、赤いマットレスに深緑のカーテン。右腕のブレスレット。共通点は明らか。
そして違いもくっきりと、明らかになる。花束を持つ黒人の使用人と、奥で衣装箱を前に、こちらには背を向けている使用人。彼女らの位置と窓の存在が、ヴィーナスの方は遠近感を与えている。窓がない、狭い室内のオリンピア。シーツと体の間の花柄のショール、ヒールつきの靴、そして4本足で立つ黒猫。 ヴィーナスの足元には犬が丸まって休んでいる。
似たように見える絵だが、その意味するところは全く違う。ヴィーナスの絵は、嫁入り道具の1つとして描かれたもの。この手の美しいヌードのヴィーナスは当時、実際よく使われた。白い美しい肉体は(こう見えて)花嫁の純潔と美の証。ピアスなどの真珠は未婚、または新婚を表し、犬は貞節と従順の、窓の外に見えるギンバイカの木は多産の象徴。

どちらも、美しい。
どちらを見ても、ぐっと引き込まれる魅力にあふれ、見飽きない。ギリシャ彫刻の崇高な肉体美とはまたちょっと違う、室内だからこそ親近感にやや淫靡さが加わった感じ。

まず、2つを見比べて、1つ1つをじっくり見て。そしてまた少し後ろに下がって、見比べる。・・・タメイキ・・・。
どちらが好きか、は個人の好みによるだろう。男性と女性でも違うかもしれない。

どちらも、それぞれ何度か見てはいるのだが、こうして合わせてみるのはやはり圧巻、これだけでも、やはり見に来てよかったと思う。

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その次のハイライトは、「笛吹き」のある、スペインの間。
黒い上着と、赤いズボンが、グレーの背景の中からくっきりと浮かび上がる。黒髪に黒い瞳。燃えるような赤い色も、実際は太い黒のラインによって、ちょうど縁取られた格好になっている。 この黒の、強く効果的なこと。正装のための、あるいは喪に服すための黒もあるが、黒はまた情熱や官能の色でもある。

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スペイン風バレエと闘牛と。そしてマネは、スペインで、とくにマドリッドのプラド美術館で見た、「道化師パブロ・デ・バリャドリードの肖像」に強く感銘を受けたという。
この絵の、えも言われぬフシギな魅力は、マネの見た、スペインのすべてが凝縮されているからなのだと思う。

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黒の鮮やかな魅力は、「すみれの花束をつけたベルト・モリゾーの肖像」でも発揮されている。

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文学者とモネの交流。
「エミール・ゾラの肖像」、日本の浮世絵風のものがあったり、マネ自身の「オリンピア」も描き込まれていたり、と、これも比較的有名な作品だが、ヴェネツィア・アッカデミア美術館所蔵、ロレンツォ・ロットの「肖像画」と並べて展示されていた。黒っぽい服、手には書物・・・などと、共通点もなくはないが、これを並べるのはやや強引なのでは・・・。

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同じく、やや強引に思えたのは、「鞭打ちの刑を受けるキリスト」に比較されていた、ティツィアーノの同テーマの作品(展示はなし)と、もう1つは「天使に支えられる死せるキリスト」の素描と、同題のアントネッロ・ダ・メッシーナの作品。構図が似ている・・・と言えば似ているけど、当時はやったテーマで、似たような作品はたくさんあるし・・・。

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さらに「バルコニー」と、カルパッチョの「2人の貴婦人」も微妙なところ。

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最初に、マネがこの作品を直接見たかどうかはわからない、と言ってたばかりなのに?・・・いや、この「引用」あるいは「オマージュ」によってそれが明らかだと言いたいのだろう。こちらは確かに、バルコニーの正面なのか横なのかが完全に違うし、男性1人の存在の有無も決定的に異なっているが、それでも、共通点を上げたらきりがないくらい。時代も立場も、モードも違う2人の女性たちをバルコニーという同じ空間内で描いてみせたのだとすると面白い。

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最後は、マネがヴェネツィア滞在中に描いたという作品、現存する2点のうちの1つ。明るい色だけで構成されたカナル・グランデの風景は、一見マネらしくないようにも見える。だが、やはりゴンドラの黒が全体をきゅっと引き締めている。(個人蔵)

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同展覧会、当初は8月中旬までの予定だったのが、9月1日までに延長された。オルセー美術館ほか作品貸出元や関係各位に感謝したい。

画像、ライモンディ(上から2枚め)とティツィアーノ「田園の合奏」(同3枚目)は wiki、会場写真はartribuine.it、残りの作品はrepubblica.it から拝借した。

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Manet. Ritorno a Venezia
24 apr - 1o settembre 2013
Palazzo Ducale, Venezia
http://www.mostramanet.it/

14 agosto 2013
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by fumieve | 2013-08-14 22:45 | 見る・観る
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