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ヴェネツィア ときどき イタリア

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第70回ヴェネツィア映画祭・3〜「風立ちぬ」

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現在開催中のヴェネツィア映画祭で、 今回、日本から唯一のコンペティション部門参加作品となった「風立ちぬ」。 公式上映前の記者会見で、宮崎駿監督がこの作品を最後に「引退する」とスタジオ・ジブリの星野社長が発表。関係者にとっても、また観客たちにとっても、いろいろな感情の交錯する中での鑑賞となったことは間違いない。

タイトルロールの「スタジオ・ジブリ」の表示で、まず拍手。でも、これはいつものこと。笑いも感激も、ときには文句も率直に表現するイタリアの映画館では、人気のある監督や俳優の名前が出て来るとまず、期待の拍手を送る。



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宮崎監督の、イタリア愛にあふれた映画だと思った。
これまでも「紅の豚」や「天空の城ラピュタ」など、イタリアの町や風景を題材にしたと言われている作品はある。だが、今回はより直接的。
主人公の堀越二郎が、少年のときから憧れていたイタリア人の航空機設計士ジャンニ・カプローニ氏と夢の中で出会う。「夢は便利だ。どこへでも行ける。」というジャンニ氏。映画のトリックの基本のような「夢」という手法を、あっさりそのまま言葉で語らせてしまうのはさすが。
技術的には完璧で仕事もきっちり、だけど融通が効かず、ケチでお固いドイツ人。暗くて寒い、吹雪のドイツから「思いっきり飛ぶ」と、そこではやわらかな風の吹く草原の上を、夢の飛行機が飛んでいる。あふれんばかりに乗っているのは着飾った女性たちや子供たち。 貧乏で子だくさん、でも 笑顔と笑い声に満ちたイタリア。それが、「当局に収める前」の軍用機で、「見つかったら怒られる」し、「こんなもの、ほんとうは戦争には使えない」。ああ、確信犯イタリア。・・・それがもちろん、夢の中のお話だとしても。
飛行機が、ドイツでは「最新工業技術の結晶」なら、イタリアでは「夢」の産物。
カプローニ氏も二郎も、その飛行機が殺戮に利用されることも残念ながらわかっている。わかっていながら美しい飛行機を作るという夢をあきらめられない。そしてそれはまた、宮崎監督自身の夢であり、愛であることは言うまでもない。

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翌日のイタリア各紙は、世界のミヤザキ引退のニュースとともに、「風立ちぬ」を大きく取り上げた。過去の傑作のレベルに達していない、と評した新聞もある。が、日頃は日本のアニメにあまり高得点をつけないコリエレ・デッラ・セーラ紙が大絶賛しているのには驚いた。「引退」ニュースがプラスに響いている部分もあるのだろうか。同紙は一面にも写真が出ていてさらに驚いた。

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同じコリエレ紙によると、会場で作品を見たジャンニ・カプローニ伯爵の孫イタロ・カプローニ氏も、そんな遠い国のアニメーション映画に自分の祖父が登場していることに大変感激されたそう。
色鮮やかでやさしいタッチの風景も、二郎の飛行機への思いも、二郎と奈緒子との愛も、ただただ美しい。美しいからこそ、その裏にのしかかる戦争の影が重く暗い。 戦争の悲惨さやむなしさを訴えるのには、必ずしも悲惨な場面や残酷な場面を見せる必要はない。

陰湿で無情な、やりきれないシーンやストーリーばかりのコンペ作品の中で、青い空に飛ぶ飛行機を夢見る優しい青年の愛の物語は、まさに一種の清涼剤となった。

風立ちぬ
宮崎駿監督、日本、 126'

3 settembre 2013
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by fumieve | 2013-09-04 01:22 | 映画
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