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ヴェネツィア ときどき イタリア

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第70回ヴェネツィア映画祭・6〜イタリア現代社会を描く3本

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もう20年近く前になるのだろうか、堀江敏幸さんの「郊外へ」を読んだときに、それまでに心のどこかにひっかかっていたもやもやが、ああなるほどとクリアになった。いわゆる日本語でいうところの「郊外」とはちょっと違う都市の周辺部とでもいうべきエリアの存在。 パリの、中心地区の華やかさからも、風光明媚な田園地帯とも違う、都市とその周辺で仕事を持つ人々の住むエリア。ベッドタウンといえばそうなのだろうが、少なくとも東京のそれとは明らかに違う、もうちょっとすさんだ、あきらめと退廃の支配する空間。深刻な貧困ではない、だが、ほとんどその社会から出ることなく暮らす人が大半の、見捨てられたような地域。
旧城壁のすぐ外側にあたるその「周辺部」的なエリアは、パリとは規模が違えども、ローマやミラノ、またイタリアのほかの都市にも存在する。

今回、地元イタリアからはコンペティション部門の3作品がノミネートされた。
シチリアの州都パレルモ、ミラノ、そしてローマ。と、イタリアの主要都市を扱っていながら、コロッセオもヴァチカンも、ミラノのドォーモも、シチリアの青い海も、一切登場しない。いずれもこの「周辺部」に暮らす人々にスポットをあてている。




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長く舞台での女優および監督経験がありながら、映画監督としては初作品となるエンマ・ダンテ監督の「Via Castellana Bandiera(カステッラーナ・バンディエーラ通り)」は、車で道を急ぐ2人が、パレルモ郊外の住宅地の一方通行なはずの坂道で対向車に出会い、ブロックされてしまう話。2人は女性同士のカップル(うち1人は監督自身が演じている)。反対方向に侵入していたのは、ビーチに孫と息子を迎えに行って帰宅途中のおばあちゃん。暑い夏の昼下がり、ふだんはとくにこれといって面白いことも起きないのだろう、クラクションの音に集まる近隣の住民たち。
どちらかがちょっとバックして、道を譲ればいいだけの話、ところが、意地の張り合いでどちらも動かない。昼が過ぎ、やがて夜になっても。
おせっかいをやく近所のおばちゃんたちも、トラブルとみて、すわ飛び出してくる男たちも、さもありなん。だが、それだけ。なるほど、いかにも舞台らしいストーリー展開ではある。だが、映画としてはもうひとひねりするか、もう少し広いスケールが欲しかった。

Via Castellana Bandiera
Emma Dante監督、イタリア、スイス、フランス、 90'
Elena Cotta, Emma Dante, Alba Rohrwacher, Renato Malfatti, Dario Casarolo, Carmine Maringola

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ミラノを舞台にしたジャンニ・アメリオ監督の「L’intrepido(勇気ある人、英題は「孤独なヒーロー」)」は、冠婚葬祭や不測のトラブルで仕事に出られない人の代わりにその仕事を務める代行業で生活を営む男が主人公。器用でどんな仕事でも、1日でもたとえ数時間でもきっちりこなし、何より前向きで人のいい中年男の、希望の星はサックス奏者をめざす息子。彼を励まし、応援する父はしかし、別れた妻が経済的には面倒を見ているらしいこの息子に、お金を借りなければならない。だがその息子は・・・。

L’intrepido
Gianni Amelio監督、イタリア 104'
Antonio Albanese, Livia Rossi, Gabriele Rendina, Alfonso Santagata, Sandra Ceccarelli

最後、「Sacro GRA(聖なる環状線)」は、ローマ市を囲む、全64kmの環状道路付近に住む人々を撮ったドキュメンタリー。その環状線を日々上下する救急隊員、道路沿いのアパートに住む祖父(?)と孫娘、テヴェレ川のうなぎ漁師や自然科学者。もちろん、イタリアで郊外の道路といったらお約束の、商売女たちもいる。
ハプニングらしいハプニングはない。だが、まさに「事実は小説より奇なり」。いや、「奇」というほどのことはない、ふつうの人々のふつうの生活の中の喜怒哀楽がしかし、なんともすてきだ。一生懸命な夫の話を適当に聞き流す妻。少し痴呆が入っているらしい老いた母は、仕事に行くという息子をなかなか放せない。交通事故に遭い、担架で運ばれる人のちょっとびっくりな、だが納得のいく一言。
都市計画開発者のニコロ・バッセッティ氏の提案で、ドキュメンタリー監督ジャンフランコ・ロージが3年かけて撮った作品は、前述2つのフィクションがいまひとつ描ききれなかった世界を、静かに淡々と、だが見事に映し出して見せた。
イタリアでは9月26日から公開。

Sacro GRA
Gianfranco Rosi監督、イタリア, 93'
(写真は冒頭)

6 settembre 2013
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by fumieve | 2013-09-06 13:36 | 映画
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