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フィレンツェの「生誕盆」(デスコ・ダ・パルト)

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ウフィツィ美術館の新しく拡張された16世紀「マニエリスム」のエリアで、ヤコポ・ポントルモ(Jacopo Pontormo)の部屋の真ん中に、直径50cmほどの、円形の作品が展示されている。
大型の作品の中でこの「聖ヨハネの生誕」はずいぶんと小ぶりで、額もない。そして、透明のケースに入って360℃見られるようになっているのだが、その形はお盆のように淵が丸くカーヴしており、裏面の、お盆の底にあたる部分には、2人の化け物が紋章をはさんでいる姿が描かれている。




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これは1527年、ジローラモ・デッラ・カーザが、長男アルディギリエーリの誕生の際に、妻リザベッタ・トルナクインチに贈ったもの。お盆に見えるのは、これが実は、ほんとにお盆として作られたものだから。

13世紀末から15世紀中盤のまさに「ルネサンス」期、 主にフィレンツェで、「Desco da parto(デスコ・ダ・パルト)」と呼ばれる「お盆」が流行した。出産祝いに送られ、産褥の女性の寝床に、飲み物や食べ物を運ぶのに使われた実用品で、 英語では「Birth Tray(バース・トレイ)」が定訳になっているようで、日本語にすると「生誕盆」といったところだろうか。

「デスコ・ダ・パルト」は、通常は円または正多角形の平板で、両面に絵が描かれているのが特徴。絵のテーマはさまざまだが、片面には生誕の場面や子供の姿が描かれていることが多い。初期には誕生する子供の両親の紋章などが入っているだけだったのが、どんどん発達を遂げ、縁取りも額縁並みに装飾的なものになり、やがて、寝室の壁に飾るためのものになっていったとされる。冒頭のポントルモの作品のように、より実用的なお盆の形をとっているものは、むしろ珍しいと思われる。
絵はもともと、家具に絵画装飾をつける職人が描いていたが、Wikipediaに挙げられているだけでも、上記ポントルモのほか、マザッチョ(ベルリン国立博物館絵画館)、ボッティチェッリ、ソドマ(ルーヴル美術館)、とそうそうたる面々の作品が、世界の主要美術館に残されており、当時のフィレンツェでは、競うように作られたものらしいことが伺える。

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フィレンツェのホーン美術館(Il Museo Horn)には、もう少し元々の形に近いものがある。1450-75年頃のものとされるこちらは、お盆としてはかなり大きめ、正12角形で幅71.5cm。片面にはプット(羽のある幼児)の姿と両家の紋章(アルビツィとソデリーニ)、もう片面には「最後の審判」。絵としてはポントルモとはとても比較にならないが、お盆らしい縁取りがついている。プットの側は最もシンプルなもの、裏にあたる「最後の審判」の方は、やや装飾的なごつめな淵になっているのがまた興味深い。(裏の写真がどうしても見つからず・・・涙)

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ドナテッロのダヴィデ像などで知られるバルジェッロ博物館には、円形の「デスコ・ダ・パルト」が1つ、展示されている。1430-40年ごろのものとされ、残念ながら片面のみだが、森の中のシーンといい、3人の乙女の豪華な装束といい、細密画のような丁寧な筆致と繊細だが豪華な色合いが大変美しい。描かれた「パリスの審判(Giudizio di Paride)」は、当時、好まれたテーマだったらしい。

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もう1つ、邸宅博物館の「デスコ」は、バルジェッロのものとほぼ同時期(15世紀中盤)でサイズ(直径59cm)もほぼ同様。こちらはマザッチョの弟、通称ロ・スケッジャ(Lo Scheggia)、ジョヴァンニ・ディ・セルジョヴァンニ(Giovanni di Ser Giovanni)の作品で、片面には「フクロウの遊び(gioco del civettino)」、もう片面に「取っ組み合いをする2人の子ども(due bambini che lottano)」が描かれている。「取っ組み合い」のほうは、一度は完全に塗りつぶされていたものが、最近の修復作業の際にこちら側の絵の存在が発覚し、今の姿に戻されたらしい。
紋章の1つは完全に失われていて判別がつかないが、残っているほうはコルビネッリ家のもの。

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このロ・スケッジャは、1449年に、あのロレンツォ・デ・メディチが誕生したときに、その母ルクレツィア・トルナブオーニに贈られた「デスコ」も描いている。表側は「名誉の勝利」、裏側には「メディチとトルナブオーニの愛」が描かれており、現在、NYのメトロポリタン美術館が所蔵している。

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ルネサンス時代に、とくにフレンツェで円型の絵画が流行したことはよく知られているし、同じウフィツィ美術館の中でも、ミケランジェロの通称「聖家族」や、ボッティチェッリの聖母子と天使たちなど、いつも多くのヴィジターに囲まれている。
もちろん、豪華な額縁に入ったこれらの作品は、サイズも全然違うし、テーマも異なっている。
だが、コインやメダルと違い、板やキャンバスの場合、本来なら自然な形とは言い難い円形の中にあえて絵を描くということ、とくにフィレンツェ(のみ)で流行したのは、ひょっとしたら何か影響や関係があるのかもしれない、と思ったりしたが、どうだろう?
・・・ふと思いついただけで何の根拠もないし、あらためて作品を見ると、やはりあまりも違いすぎて、ただ「丸い」というだけでくくるのは乱暴なような気もするのだが。

(写真はすべて、各美術館公式サイトと、一部wikipediaから拝借)

26 settembre 2013
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by fumieve | 2013-09-27 03:23 | 見る・観る
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