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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「ヴェニス 光と影」吉行淳之介・篠山紀信・著 新潮文庫

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もともと単行本が出たのが昭和55年、文庫の初版が平成2年とあるから、ずいぶん古い本の話で恐縮だが、たまたま日本の古本屋で見つけたもの。
ヴェネツィアについては、古今東西、紀行文が数限りなくあるし、写真集についてもしかり。だが、小説家と写真家と、いずれも超ビッグネームながら思いがけぬ組み合わせに、数十年前にはこんな豪華な企画があり得たのだと思いつつ読んだら、この本のアートディレクターが和田誠さんだというので、納得というか、さらに驚きというか。

おおかたの読者諸氏は、この本の文章の部分を読んで、自分の心に描いていたヴェニスと大きな落差を感じたことだろう。

吉行さん自身が「あとがきに替えて」で指摘されているように、吉行さんの語るヴェネツィアは、一般に多くイメージされているヴェネツィアとはちょっと違う、「闇」とはいわないまでもまさに世界の観光都市の「影」の部分。もともと後ろ向きでようやく到達したヴェネツィアで著者が見たのは、古びたホテルであり、陰鬱な湿気であり、怪しげな中華料理店だった。トーマス・マンの「ヴェニスに死す」を下敷きにしたようなしないような、紀行文のような小説。

ご本人の指摘とは裏腹に、さもありなん、と思って読んだのだが、といって、この小説の疑似体験をしたい、こういうヴェネツィアが見たいと言われると、それはまた難しい。
須賀敦子さんのエッセイもそうなのだが、 あくまでも旅行者として、しかもうんと短期間の滞在で、だから多少の誤解もあったりするのだけど、事実をつないでこうして耽美な文章が生まれるのだからすごい。

一方で、やはり吉行さんが言うように、篠山氏の撮るヴェネツィアは、これぞヴェネツィアと期待されるヴェネツィアで、おそらく今でもほとんど変わりないだろう。
陽と陰のヴェネツィア、それなのにこの1冊の薄い文庫の中で見事なハーモニーを見せているのはすごい。どちらかを先に、どちらかを後に用意したものではなく、一緒に取材し、同行したり別れたりしてそれぞれで創作した結果を組み合わせたというのだから、これはやはりディレクターの存在を忘れてはならないだろう。2人の共著という体裁を取っているが、3人にしてもいいくらいだと思う。

27 gen 2014
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by fumieve | 2014-01-27 21:46 | 読む
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