11世紀以来、ヴェネツィアのガラス工房は原則、本島のすぐ北側にあるムラーノ島にすべて集められていることはよく知られている。
が、吹きガラス用の窯を持つ大きな工房で、唯一例外的な存在なのが、このオルソーニ工房。ヴェネツィア本島内の元ゲットー地区、19世紀にアンジェロ・オルソーニ(Angelo Orsoni)という人があえてここに、工房を開いた。
製品はすべて、サン・マルコ大聖堂内外の壁や天井など装飾に使われているガラス・モザイク用のガラス。モザイク用に四角く切ったガラス片を通常はテッセラ(tessera、複数形でテッセレ)というが、このオルソーニでは、金箔入りの、いわゆる金のモザイク・ガラスをテッセレ、それ以外の色の入ったモザイク・ガラスについては、ズマルト(smalto、複数形でズマルティ、エナメルの意)と呼んでいる。
このオルソーニ工房、面白いのは工房兼事務所の建物の上がB&Bになっていて、ふつうに予約して宿泊が可能なこと。そして、宿泊者は朝食のあと、希望すれば工房内を見学することができる。
(B&Bオルソーニは、こちらのサイトから日本語で、ご予約いただけます!
http://www.lacasamia.jp/ → ヴェネツィアのB&Bとプチホテル、のページへ)
見せていただいたこの日は、超ラッキーなことに、ここの特産品といっていい金のモザイクを作っていて、そのため、窯のまわりでの作業は撮影禁止。あっと驚く、かつ、なるほどなるほど、的な方法で金モザイク・ガラス、つまりテッセレが作られていた、とだけ言及しておこう。
こちらは、テッセレを作る途中段階。ごく薄く、フィルムのようなガラス板の上に1枚1枚、軽く蒸気をあてた金箔を乗せていく。これを窯に持っていって、この上にもう少し厚めのガラスをかぶせて、金箔を完全にガラスとガラスのサンドの中に閉じ込めてしまう。(詳細は企業秘密!)
そのガラスをカットするのだが、最初は金箔の大きさに合わせて、その少し内側、8x8cmの正方形に切る。ダイヤモンドの針のついたカッターで筋をつけ、あとは手でパキン、パキンと割っていく。
そこから2x2、さらに1x1のサイズにカットしていくのは、ミシンのような機械と、それをいとも簡単に使いこなす職人さんたち。
そして、とくにびっくりしてしまうのは、「カラー・ライブラリー」とも呼ばれている倉庫。
20x20cmくらいに切った色ガラスがずらーーーっと、まさに図書館のように並んでいる。
同工房では、テッセラにせよズマルティにせよ、基本は注文生産なのだが、作るときに必ず、予備をなるべく多めに作っておくのだそう。そうすれば顧客側の、多少の注文変更や修復時の要求にも対応できるから。確かに、これだけヴァリエーションがあればあるほど、全く同じ色を作り直すのもまた至難の技だろう。
ちなみにこのオルソーニ、今でも化学染料は一切使用せず、すべて天然の鉱物などで色を出しているそう。
また、色はもちろん、もともとが注文生産だから、カット・サイズも注文次第。たとえばこの一角は、
バルセロナのサグラダ・ファミリアで使われているガラスだが、ズマルティが通常より厚めらしい。
一方、ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂の場合は、金箔入りガラスを小片にカットせず、まるのまま納品。聖堂内の工房で必要な大きさにカットして、修復作業に使われている。
B&Bのエントランスは、ちょっとした博物館。
こちらは、1889年、パリ万博に出展したオルソーニの色見本パネル。ここでオルソーニは思ってもいなかった大成功を修めることになる。
のちにサグラダ・ファミリアに着手するガウディに発見されたのもここで、ガウディ本人よる最初の注文書も残っているという。現在もまだ、1年に1回、責任者が1年分のオーダーのためにやってくるらしい。
こちらは、ミラノのガッレリアの床を飾るモザイクの特注品。てっきり石だと思っていたが、なんとここで作ったガラスだった。
工房内で3日または5日間のモザイク・アート教室も定期的に開催されている。
Orsoni Mosaici
Cannaregio, 1045 - 30121 Venezia
http://www.orsoni.com/
17 mar 2014