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ヴェネツィア ときどき イタリア

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マリーノ・ナーニ・モチェニーゴ伯爵の磁器コレクション、カ・レッツォーニコにて

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すっきりとした釣り鐘型のフォルムに、白く透き通った磁肌、自然な植物(ばら)模様は青の染付けに色絵。バランスが絶妙で美しい。これまで全く見たことのないスタイル。
染付けに色絵は、初期のヨーロッパでよく見られるが、派手でゴテゴテな「イマリ」風で、これでもか!と地を埋め尽くす、様式化されたものがほとんど。柿右衛門写し、というわけでもなく、どうやら独自のデザインのようだが、白地の残し方といい色合いといい、控えめで、なんとも美しい。
ヴェネツィア、ヴェッツィ窯(Vezzi)によるもの。



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合わせて展示されている、同じくヴェッツィ窯のカップ、小皿ともやはり繊細な美しさが際立つ。

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染付け赤絵に金彩の典型的な例、砂糖壷は、同じヴェネツィアのコッツィ(Cozzi)窯によるもの。

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ヴェネツィアにはかつて、いくつもの磁器工房があった。

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(こちらは、白磁を模してガラスで作ったもの)

長らく、日本や中国から輸入され、ヨーロッパで憧れの的であった「磁器」の製法をザクセン公国アウグスト王の命により、錬金術師ベトガーが「発見」したのが1709年。翌年に王立の磁器工場が設立され、ほかの欧州列強も次々と磁器製造の開発・製造に乗り出した。

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その18世紀前半はまさに、トルコなど「東方」からもたらされた、コーヒーやチョコレートがヴェネツィアで大流行する時期と重なる。黒くて苦い、だが香り高い、どろっとした魅惑の飲み物を、よりおいしく味わうには、その器が大変重要だった。地肌が白く透明感があり、薄くて軽い磁器のカップは、当時はまだ高価で貴重な飲みものであったカフェやチョコレートを、ありがたく、だがいかにもオシャレに頂くのにまさにピッタリだった。当然ヴェネツィアでは、その需要に応える必要があった。
同時に18世紀はまた、テーブル・マナーが大きく変化した時代でもあった。そうして、磁器のテーブル・ウェアがヨーロッパ中で急速に、大いに発達していったのだった。

ヴェネツィアに磁器の窯が始めてできたのは1720年。ジョヴァンニ・ヴェッツィが、べトガーの協力者であったChristopher Conrad Hunger氏を招聘し、当初は大きな成功を収めるが、にも関わらずわずか7年で廃業する。
ほかのヨーロッパ諸国では、もともと王侯貴族が競って磁器の開発に乗り出し、発明後はとくに国家独占事業として保護に務めたのに対し、ヴェネツィアでは一度も、お上の後ろ盾を得ることがなかった。それぞれ一企業家、一職人の努力で生まれたヴェネツィアの磁器窯は、市場競争に敗れ次々と消えていったという。ヴェッツィの後30年ほど、ヴェネツィアから磁器窯は誕生しなかったが、7年戦争から逃れてきたザクセン人商人、Nathaniel Friederich Hewelcke氏が1757年にウディネで磁器窯を開く。3年後の1761年にヴェネツィアに拠点を移すものの、63年に閉じてドレスデンに戻って行く。

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彼の共同経営者であった企業家、ジェミニアーノ・コッツィが翌年改めて窯を開いたが、コッツィのマーケティング戦略があたり、これはヴェネツィア共和国終焉まで続く。

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1880年、ヴェネツィアの伯爵家に生まれたマリーノ・ナーニ・モチェニーゴは、病的なまでの磁器に対する偏愛で知られ、ヨーロッパ各地の名窯の作品を蒐集していた。1954年に伯爵が亡くなった後、夫人は彼を偲んで、小さな美術館を開き、コレクションを一般に公開する。
その美術館も80年代末に閉館、コレクションはながらく人の目に触れられずにいたのだが、今回、このカ・レッツォーニコ18世紀美術館であらためて、個人コレクションとして公開されることになった。

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上述のヴェッツィ、コッツィなどヴェネツィアの窯はもちろん、ナポリなどイタリアのほかの工房の磁器や、マイセンのカフェ、ティーセットはクラシックなものからちょっと珍しい絵柄のものまで、また人形類も多いのは、磁器マニアにとって嬉しい限り。

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そしてこの、図録の表紙にもなっているこれ、 なんと垂れ袖!(垂れ袖については、話が長くなるので、興味のある方は、こちらをどうぞ。
http://fumiemve.exblog.jp/7097034/ )
ついでに言うと、この図録がまたなかなかすばらしい。イタリアでありがちな、やたらかさばって大きくする傾向にある美術展の図録と違い、シンプルで図版もまずまずきれい、展示作品1つ1つの文字通りカタログになっていて、のちのち資料として使える。

企画展としては11月末までだが、その後どうなるか、実はまだ決まっていないらしい。カ・レッツォーニコ側としては、このまま、同館での展示を希望、一ヴィジターとしてもぜひぜひ、そうなってくれることを期待する。

Le porcellane di Marino Nani Mocenigo
Ca’ Rezzonico Museo del Settecento Veneziano
14 giu - 30 nov 2014
www.carezzonicovisitmuve.it

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13 giugno 2014
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by fumieve | 2014-06-14 03:52 | 見る・観る
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