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バルセロナ近郊、ジローナの「天地創造の刺繍布」

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昨年秋、バルセロナに行ったときに、どうしても見たいと思っていたものがあった。

バルセロナから電車で、1時間強〜2時間くらいのところにある、ジローナ(Girona)の大聖堂は、横幅約23mと、ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂に次ぐという巨大なゴシック建築。
入場料を払って中に入ると、簡単な案内図を受け取るが、その順路でいうと一番最後、「博物館」部分の一番奥にそれはあった。




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通称「ジローナの天地創造のタピスリー(Tapís de la Creació)」。
大きな布のためタピスリーと呼ばれているが、実際は織物ではなく、刺繍。
美術史家の金沢百枝さんが、論文を「ロマネスクの宇宙ージローナの『天地創造の刺繍布』を読む」として出版されているので、金沢さんの表記にならい、ここでは「刺繍布」と呼びたいと思う。

おそらく自身の重さによる負担を少しでも軽減するために、ほんの少し傾いた台に載せられ、ガラスの中に収まった「刺繍布」は、縦が3m58cm、横4m50cmという大きさで11世紀のもの。これだけでもかなりの迫力だが、実際は6枚の布がうまくつなぎ合わされている。また、四辺の図案が不自然に切れていることで、本来はさらに大きかったことが容易に観察できる。
1000年近く前のものがこうして現存するだけでも希有な例なのだが、この「刺繍布」のさらに珍しいところは、絹でも麻でもなく、羊毛を使っていること。

布の中心部、大きな円の中に描かれているのは「天地創造」。円形の中心部に腰掛けた姿のキリストが現れる。右手で祝福のポーズ、左手には開いた聖書。

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その回りを囲むドーナツ状の部分に、「天地創造」、つまり旧約聖書の冒頭の部分、世界のはじまりの様子が描かれている。
上部、闇の中に浮かぶ、円の中にいるのは鳩の形をした神の霊。

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すなわち、

初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。神は言われた。『光あれ。』・・・神は光と闇を分け、光を昼と呼び、闇を夜と呼ばれた。・・・第一の日である。

の部分。両側にいる天使は、右が「光」、左が「闇」を表している。

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「闇」の左隣が「大地と水を分ける」2日め。一方、「光」の右隣が、4日め「太陽と月、星を作る」。

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中央下部の一番大きな枠の部分が、「鳥と魚の創造」の5日め。そのまま右上に上がったところが、6日め、「動物を創り、アダムを創る」ところまで。

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そしてその反対側を見ると、「アダムのあばらからイヴが創られる」場面だが、どうやらこれは、 3日めの「植物の創造」とともに描かれているよう。

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不思議なのは、お話の順番通りが連続して描かれていないこと。
だが、もう一度、体を引いて全体を見ると、上半分には円を3つ置いた幾何学的な構図、下半分は動植物が生き生きと描かれ、楽園的な雰囲気がよく現れていて、バランスが取れた、大変凝った構図であることがわかる。

実は、これをぜひ一度、見たかった理由は、ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂のモザイクとの類似性を見たかったから。
(サン・マルコ大聖堂の「天地創造」のモザイクについてはこちらをご参照
http://www.japanitalytravel.com/back/mosaici/2012_03/03.html )
サン・マルコでは、L字型のナルテクス(前室)の一番端に「天地創造」のクーポラがあるのだが、その半円型をドーナツ状に3段に分け、それをさらにいくつかに区切って物語を展開させている。少なくともほかのクーポラで、こんな風にコマ割りで絵をびっしりと配置している例はあまりないように思う。
なのでこの「ジローナの刺繍布」を写真で見たときに、ああ、これはサン・マルコに似ている、と思って気になっていたのだった。

丸顔でちょっとひょうひょうとした表情のキリスト。擬人化の併用。描かれた鳥や海の生き物、陸の動物たちが、ときに怪獣のようでありつつも、カラフルでにぎやかなこと。
が、こうして改めて見ると、類似点もあるものの、相違点もたくさんある。サン・マルコの方はきちんと順番通りに、半時計回りに物語が進んでいくこともそうだが、最大の違いは、「絵」の向きだろう。サン・マルコでは、マンガのようにコマ割りになった場面、場面が、すべて円の中心を頭にしているが、「刺繍布」では、中央のキリストの向きに合わせ、円のどの部分も上下一定で描かれている。
これはもちろん、サン・マルコの方は下から見上げるクーポラであること、「刺繍布」は壁などに掛けて使われていたためもあるだろう。
ただ、これが実際いつ、何のために使われていたものなのか、明確にはわかっていないらしい。
サン・マルコの「天地創造」のモザイクは1220年ごろに制作されたものだから、それよりさらに200年くらい前のこの大作は、針と糸による「刺繍」という表現方法の特徴がよく生かされており、糸のつや、自由な運指が、柔らかくかつ華やかな、独特の「天地創造」を作り上げている。

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(もうちょっと、続きます。)

El Tapís de la Creació
Catedral de Girona

26 giu 2014
by fumieve | 2014-06-27 05:03 | 異国の旅
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