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バルセロナ近郊、ジローナの「天地創造」の刺繍布、続き

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ジローナの11世紀の刺繍布の、ほぼ中央を占める大きな円盤、「天地創造」の周りを囲む四隅にいるのは「風」の擬人像。左上が北風、以降、時計回りに東、南、そして西。




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上に目を向けると、中央の白っぽい円の中にいるのは、ANNUS、すなわち「1年」の擬人像。

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向かってすぐ左隣、ぶどう狩りをする「秋(AUTUNUS)」、その隣は麦を刈る「夏(ESTAS)」。

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「1年」に戻って、その右側は、あたたかそうなマントにくるまり、暖炉にあたる「冬(HI(EMS))」。そして文字の記載がないのだが、畑を耕しているのは間違いなく「春」。

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その両隣が謎で、現地で販売しているガイドブック(The Creation Tapestry, Manuel Castiñeiras, Catedral de Girona発行、2011年)によると、さらっと、いずれも旧約聖書の登場人物で、まず左側は「サムソン」、そして右側は「アベル」としている。が、金沢百枝さんの著書「ロマネスクの宇宙 ジローナの『天地創造の刺繍布』を読む」(東京大学出版会、2008年)によると、左側は、

かつては、右側の人物像「アベル」と対になる「カイン」とされていたが、修復の結果サムソン(SAMSON)という銘文がより明確になった。一方、かつて「アベル」とされていた刺繍布上端、右から二番目の人物には銘文がなく、特定できない。

学者の間でもさまざまな解釈、推定がされているが、金沢さんはこれが「アベル」ではなく「ヘラクレス」とし、「サムソン」と「ヘラクレス」という2人の英雄が描かれている理由を説明している。

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右側はそこで破損してなくなっているが、左端、白い円の中にいるのは「ギボン(GEON)」と明記されているが、これは世界を創った最初の4つの川、すなわち、旧約聖書「天地創造」の中で、エデンから流れ出る川が4つに分かれていた、とされる、そのうち第2の川とされているもの。

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これらの「川」は、単に泉から流れ出る水で表されることもあるが、こうして壷を持つ人の姿で描かれることも多い。
残念ながらほとんど残っていないが、対称の位置にある右端は第1の川、「ピション(Pishon)」、さらに一番下の両端には、「チグリス(TIGRIS)」、「ユーフラテス(EUPHRATES)」が描かれていたことが予想される。
ギボンから下、縦のラインは、各月の擬人像。

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まず、釣り人の姿で描かれているのは6月(IUNIUS)。

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その下、羊飼いが5月(MAIUS)、そして畑を耕す4月(APRILIS)。

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そして、啓蟄とでも言ったらいいだろうか、右手に蛇、左手にカエルを持ち(!)、コウノトリまで登場して、にぎやか感あふれる3月(MARCIUS)。

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その下、1つ飛ばして、半分だけ見えているのが狩人の2月(FEBRUARIUS)。

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その2月と3月のいずれにも登場してる、PRICUS について、これは金沢さんはおそらくFRIGUSで「寒風」と説明。3月の方は右側に太陽も顔を出しており、三寒四温な様子がよく出ている。
失われている2月の下には1月、そして絵が半分以上失われている右端には、残りの6カ月が描かれていることは明らかだろう。上から、7、8、9、10月、そして1つおいて11、12月が配置されていたはず。7、8、9月にはいずれも太陽(SOL)が照りつける様子が、そして10月はぶどうの収穫が描かれているのがわかる。

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労働の姿で月暦を表すのは、中世にはやった図像で、絵画表現としてもっともよく知られているのは、「ベリー公のいとも豪華なる時祷書」(1413-16年、フランス)に、イタリアではトレントのブオンコンシリオ城のフレスコ画など。また教会などの彫刻装飾にも多く使われており、これもパルマの洗礼堂内の彫刻が挙げられるが、ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂の正面入口にも見られる。6+6、あるいは4x3など、シリーズ物のレリーフや彫刻があって、そこにぶどう狩りの場面などがあったら、ほぼ間違いなく12カ月の表現だと思っていい。

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刺繍布に戻って、3月と2月の間、そして10月の下に描かれているのは、「太陽の日(DIES SOLIS)「と「月の日(DIES (LVNAE))」、すなわち、日曜日と月曜日。週のうち2日だけ登場するのは不思議だが、刺繍布そのものは大きく下部を欠いており、おそらく、下端の枠に残りの曜日があったのではないかと思われる。

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刺繍布下部には、これもわずかな断片ながら、しかし明らかに「聖十字架発見」の物語が描かれていることがわかる。左端、建物の前に立つのが聖ヘレナ、彼女と会話をしているのがユダ。そして一番右端には、十字架を掘り出すユダの姿が見える。

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金沢さんの著書のタイトルにあるように、これがまさに、11世紀当時、ヨーロッパの世界観、宇宙観であった。諸々、詳しい解説は、金沢さんの著書を読んでいただくとして、ここでは、ルネサンス以降のヨーロッパでは、絵画、彫刻、建築を3大芸術とし、それ以外の工芸などを「マイナー」と定義して脇に押しやってしまったが、この当時、金銀や象牙細工はもちろん、織物や刺繍など豪華な「布」ものもまた、金と同等かそれ以上に扱われる貴重な芸術品であったことを、あらためて強調しておきたい。
そして、その質、大きさ、保存状態のよさ全てを取って、同時代のものはこれともう1つ、「バイユーのタペストリー」として知られる、フランス、ノルマンディー地方バイユーに伝えられる刺繍布の2つしか現存しない。(ちなみに、こちらも通称「タピスリー」と呼ばれているが、実際は刺繍もの)
0.5mx63.6mと、絵巻状で時系列に歴史物語を描いた、したがって比較的わかりやすい「バイユー」と異なり「ジローナ」は一部欠損もあるために謎も多いこと、また、白地を残してあっさりと描かれた「バイユー」と対称的に、一寸の隙もなくすべて糸で埋め尽くした「ジローナ」は、全体のデザインもさることながら、1つ1つの筆遣いならぬ、針遣いに間近で見て息を飲む。遠目にはまさに、洞窟を利用して作られた、カタルーニャ地方の多くの教会壁画のようにも見える。
金沢さんの著書では最後に、この2つの刺繍布の関係にも言及している。

・・・というわけで、バイユーもいつか見に行かなくては!

(堂内、撮影禁止のはずが、皆が写真を撮っていたので私もつい、激写。・・・ほんとはやはり禁止のようです。詳細写真は拡大して使っているので、だいぶ見づらくてすみません。)

28 giu 2014
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by fumieve | 2014-06-28 17:04 | 異国の旅
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