今から30年前の1984年9月21日、ヴェネツィアで、すてきな美術館がオープンした。
サン・マルコ湾の目の前、サン・ジョルジョ・マッジョーレ島に本部を置き、美術、音楽系の貴重な書物を含む図書館を所有するほか、最近は現代ガラスを中心に、さまざまな企画展も行なっている、ジョルジョ・チーニ財団。
実業家で財団創立者のヴィットリオ・チーニ氏亡きあと、彼の個人邸宅であった館の一部に、彼の遺産を受け継いだ三女が財団に寄贈したトスカーナ派の絵画作品などを置き、邸宅美術館として公開。89年にはさらに、やはり遺産の一部であったフェッラーラ派の絵画が加わった。
ここしばらく、美術館としては閉館、見学は何かの機会に限定で行なわれていたのみだったのだが、一気に脚光を浴びたのは、
昨年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展で初参加アンゴラのパビリオンとして使われ、しかもそれが金獅子賞を取ったため。展示に使われた「写真」や、この邸宅美術館そのままに作品を「展示」するという企画力が評価されたのはもちろんだが、この環境、ヴェネツィアの町中にひっそりと埋もれていた珠玉のギャラリーの再発見、という要素も加算されたであろうことは容易に想像できる。
カナル・グランデ(Canal Grande、大運河)に面した建物はもともと、16世紀に建てられたもの。邸宅とはいえ、(公開されているのはごく一部ということもあり)ヴェネツィアのほかの邸宅美術館、たとえば、
カ・レッツォーニコや
モチェニーゴ館ほどの豪華さ派手さはなく、むしろ、ヴィジターの女性がコメントしていたように「ごく普通の家みたい」。いやいや、もちろんワタシごとき庶民は一生どんなに頑張ったって足元にも及ばないけれども、確かに言いたいことはわかる。住むことはないけれど、まれに、知人の家に招かれて尋ねてみたらすごく立派なお家だった!というくらいの感じ。
つまり、ヴェネツィアの地元の人、ちょっとしたファミリーの人なら住んでてもおかしくないくらいの環境で、このくらいのお家はほかにもまだまだありそうなとこがまた、この「小さな」美術館の魅力のように思う。ほんとうに、ちょっと友人に招かれて、すてきなお宅を見せていただいているような気分が味わえる。
もっとも、それでもこれだけの美術作品に出会えるのは、実際はなかなかあることではない。とくに、「ルネサンスの間」のトスカーナ派の画家は、ヴェネツィアではアッカデミア美術館でも見ることができない。
フィリッポ・リッピ、ドメニコ・ギルランダイオ(と工房)、
ベアート・アンジェリコ、ピエロ・ディ・コジモに、ボッティチェッリ(と助手)。
ポントルモの「2人の肖像」は、フィレンツェの企画展に出展されていて、先日戻ってきたばかり。だが、最初からずっとそこにあったような落ち着きが。
ピエロ・デッラ・フランチェスカはアッカデミアに1つあるけれど、この聖母子像はとくにすばらしい。
大広間から突き出した「昼食の間」は、1950年代にヴィットリオ・チーニ氏自身が、建築家トマーゾ・ブッツィ氏に依頼して作らせたもの。1785-95年の、ヴェネツィア、コッツィ窯のディナーセット275ピースが並べられている。
ヴェネツィアの美術学校創立60周年を記念した今回の公開のため、作品の修復などのほか、照明設備も整備した。とりあえず、5月24日から11月2日まで、とのことだが、今後常設になってくれれば、と期待している。
Palazzo Cini
24 mag -2 nov 2014
http://www.palazzocini.it/
13 agosto 2014