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第71回ヴェネツィア映画祭・6〜「野火」、塚本晋也監督

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抜けるように青い空。まぶしい光が溶け込むかのような、白い砂浜の静かな海。頭上を覆うように咲き乱れる、赤紫のブーゲンビリア。そして、何もかもを包み込む緑深きジャングル。

ヴェネツィア映画祭の常連、塚本晋也監督の、これまでの塚本作品では見たことのなかったような、美しい自然の映像が鮮明にスクリーンから目に飛び込んでくる。




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目に見えない、たくさんの命を育む緑のジャングルはしかし、無数の敵をかくまう巨大な迷宮でもある。公式上映前の記者会見で塚本監督はそれを、出口の見えないという意味において「密室の中のできごとと同じ」であり、敵もボスも見えない、自分だけさまよっているところに弾だけが飛んでくるという不条理、突発的な恐怖を表現したかったと説明。これまでは東京というコンクリート・ジャングルを舞台に映画を作ってきたが、コンクリートもまた大きな自然の中では、海の上に浮かぶ船に過ぎず、こんなに大きな自然の中にいて、なぜ人間は戦いという愚かしくてバカなことをするのか、それを美しい自然の中で撮ってみたい、と自分の中で変わっていったのかもしれない、と述懐した。

塚本監督が、大岡昇平の小説「野火」を映画化した、市川監督の同題の作品を観たのは高校生のとき。「すっごい面白い映画」だと思っていたが、今回の作品は、心理面により重点をあてた市川作品のリメイクではなく、あくまでも原作に立ち返って、原作に表現されているフィリピンの大自然や人間、それをより忠実に描きたかったと言う。

容赦ない戦闘の場面、ゲリラとの戦いの恐怖、手足や体の一部が飛び交い、転がり、何よりも飢餓と怪我で倒れ、朽ち果てていく人間たちの姿は、確かにグロテスクで正視に耐えない。勘弁してくれ、ここまでやらなくても、と思う人もあるかもしれない。
ヴァイオレンスものが苦手な私も正直のところ、今までの塚本作品はあまり好きになれなかった。だが、今回のこの作品では、これが必要だったのだと納得。
「戦争に行っちゃったら全部やりすぎの世界だし、このくらい描かないと足りない。映画の中でも手加減しない、と思って表現した。」
という監督の言葉に深く共感した。

日本でもイタリアでも、世界中で少しでも多くの人に、観てほしいと心から願う。

Nobi (Fires on the Plain)、日本、87’
塚本晋也監督
Shinya Tsukamoto, Yusaku Mori, Yuko Nakamura, Tatsuya Nakamura, Lily Franky

3 settembre 2014
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by fumieve | 2014-09-03 23:39 | 映画
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