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ヴェネツィア ときどき イタリア

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第64回 ヴェネツィア国際映画祭~6

12
監督 Nikita Mikhalkov
出演 Sergey Makovetsky ほか

12人の陪審員。
容疑者はチェチェン人の少年。ロシア人の養父を殺した罪に問われている。裁判の結果はほぼ明らか、自分に何の関係もない、興味のない陪審員たちは、「有罪」と決めてかかる。皆、さっさと終わらせて早く自分の仕事や家に戻りたい。
ところが、1人だけ、異を唱えるものがあった。理由は「彼の人生に責任を負いたくない」から。そしてともかく「話をしたい」、と。
これは映画だから、ある意味最初から、最後には覆るのだろう、と予測ができる。しかも153分、と長い。が、ドキドキが続いて一向に飽きない。まずは会話のテンポのよさ、そして「専用の部屋がまだ工事中だから」という理由で暫定的に会場に使われているのが小学校の体育館で、これが実に効果的な設定となる。そして12人それぞれが個性的で、何より人間的。見ていて完全に巻き込まれる。自分だったら、どうする?
登場人物が限られていること、ほぼ全編、閉じられた空間内でのできごとであること、何とか他人を説得しようと議論が続くから、なだめたりすかしたりとセリフやジェスチャーが少々大げさ気味で、Branagh監督のSleuth同様、かなり舞台的な作品。
が、それがいい効果を発揮していて、わかりやすい。自分の語学能力を棚に上げてあえて言うと、やはり映画は、ある程度、観客に「わからせる」よう作る必要もあるのではないだろうか。
舞台の背景にチェチェン戦争をおいているが、本質的にはチェチェンそのものではなく、もっと普遍的な内容であり、陪審制度の問題、人種差別、近代化のひずみ、格差・・・と、現代の社会問題を提起している。陪審という、密室かつ非日常の空間にいながら、実は究極に人間くさいドラマである。
最後のエピソード、最後の最後のセリフまで気が抜けない。

Heya fawda (Chaos)
監督 Youssef Chahine
出演 Khaled Saleh, Y.EL. Cherif, H. Sedky

エジプト映画。ブ男な警察官が、隣に住む美女に恋い焦がれて、ストーカーまがいの行為を繰り返すという話。これがまた、何かと袖の下を要求するわ、権力を悪用するわでどうしようもない男。内容のバカバカしさと、くさい演技とで、そういえば先日のイタリア映画といい勝負かも。もっともこちらは、はじめからお笑い仕立てな分、ましかもしれない。が、お笑い娯楽ならば、いっそインド映画くらい徹底的にやってほしいものだが、これもまた国民性の違いなのか、少々中途半端。
都合により、私は途中で退出してしまったのだが、話によると最後までずっとこの調子だったらしい。
なぜこれがコンペに?と思うが、考えてみれば、23本もの作品があれば、いろいろなものがあるということだろう。

Man from Plains
監督 Jonathan Demme

今年の映画祭、前述のエジプトどたばた映画が最後かと思うと何となくがっかりで、コンペ外だが、人に勧められたこの作品をシメに見ることにした。
ジミー・カーター元・米大統領のドキュメンタリー。イスラエルの平和のために、80歳を越えてなお活動を続ける、その様子をレポートする。
数年前に、「パレスティナ、アパルトヘイトなき平和」(イタリア語からの直訳、邦訳が出ているかどうかは不明)という著書を刊行しており、この映画では全編を通してその販促活動に奔走する姿を追う。その間に、エジプト、イスラエル間の協定の仲介となったデービッド・キャンプなど、大統領現役時代の映像が差し込まれる。
したがって、映画自体かなりプロパガンダ的であることは否めない。が、その点をさっぴいても、ジミー・カーターという1人の「元・大統領」の人となりがよく伝わってくる。今は完全に白髪で、アメリカ人としては小柄に見える彼の、精力的に活動を続ける様子、周りに気を配りつつも自分の意思は絶対に曲げない強い姿勢、奥さんとの愛情あふれるやりとり。
国内外を問わず、なんらかの社会貢献は、立場上必須であろう。が、彼の場合はお仕着せでもかっこだけでもなく、ほんとうに自らの心血を注いでいるように見える。

アメリカには、まだこういう人が存在する。

7 set 2007
by fumieve | 2007-09-08 08:37 | 映画
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