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イタリアの見た日本人6・番外編:ない袖は振れぬ?

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イタリアの見た日本人:これまでのお話
5・ヴェネツィアが失くしたもの
4・ヴィチェンツァ
3・ローマの天正少年使節団
2・天正少年使節団
1・「日本の若者」

これまでのおさらい:
ざっくりと言えば、16世紀から18世紀の西洋から見た「日本服飾史」を作ろう、というのが卒論研究当初の案。が、ざっと調べ始めたところ、あまりにも対象となる絵が少ないことと、天正少年使節団の多いようで少ない情報に、まずすっかり足止めを食らってしまった。
結局、ここまでで出てきた「日本の服装」と明記されて描かれた絵は、

1585年にボローニャで出版された本の挿絵
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1598年にヴェネツィアで出版された、チェーザレ・ヴェチェッリオによるファッション辞典の「日本の少年」
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の2つのみ。この2つも、正直のところ和装とはいい難いのだが、もう1つ気になったのが、ヴァチカンのフレスコ画。こちらは、完全に洋装と思われるが、ほかの誰とも似ても似つかぬ不思議な格好、それも特にその袖の不思議なこと。
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実はこの袖の遊び、途中にあいた穴からあえて腕を出し、残りの部分を垂らすというのは、かつてイタリア・モード界を大席巻したスタイルだった。
袖の形はしていないものの、肘から後ろ側に長く布を垂らしている姿は、たとえば、14世紀の写本「音楽について」の挿絵にも見られる。(写真1番上)
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これの豪華版が、ヴェネツィア、サン・マルコ大聖堂内のモザイク、「サロメ」で、垂れた袖はドレスのすそに向かって見えている裏地同様、毛皮になっている。
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一方、ちゃんと筒の形をした袖から腕を抜いた形としては、さらに時代を遡り、13世紀の写本の中の「鷹師」に既にみられる。
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もともとは、実用上の問題だったのかもしれない。が、これはいつのまにか貴族や上流階級のファッションとして取り入れられ、15世紀にはあらゆるバリエーションを伴った「抜き袖」「垂らし袖」が大流行する。
ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノの「東方三王の礼拝」(1423年)、
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ベノッツォ・ゴッツォリの「東方三王の行列」(1459年)
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のように、垂らした袖が筒になっておらず、マントのように先が開いているもの。

ベアート・アンジェリコ(1430-32年)、
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ドメニコ・ヴェネツィアーノ(1440-45年)の「東方三王の礼拝」
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ではなんと、アコーディオンのように襞のついた袖は垂れるというよりは後ろで大きく膨らんでいる。







15世紀後半に入ると、超豪華な袖は下火になるものの、「垂れ袖」スタイルは相変わらずあちこちで見られる。口が丸いもの、V字に開いたもの、など腕の出る部分の形はさまざまながら、垂らした袖は薄く細くシンプルになり、しばしばそれを腕にまた巻いたりしている。
ペルジーノや
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カルパッチョの作品には、垂らした袖をいろいろアレンジする姿が見られる。
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天正使節団の少年たちが、なぜ「垂れ袖」スタイルで描かれたのか?
どうアプローチしたものか途方にくれて、イタリア・モード史事典と、あとは片っぱしから手元の画集などのページをひたすらめくった。研究とは関係なく美術館に行っても、ついつい袖に目が行ってしまい、ああ、この人もあの人も、誰もかれもが「垂れ袖」をしている・・・。
夜ベッドに入って、眠りに落ちる前に、昼間見た絵の登場人物たちが一斉にこちらに向かって色とりどりの垂れ袖を振っている夢を見たのもこのころだった。

「日本の服装」から、ずいぶん遠いところにいる・・・と思いつつも、頭にひっかかって前に進めずにいた。

が、15世紀を通してあらゆる遊びをつくした「垂れ袖」文化は、16世紀に入ったころから変化を遂げる。そうして、自分なりにある1つの仮説にたどりついた。

(続)7・番外編:ない袖は振れぬ?2

10 maggio 2008
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by fumieve | 2008-05-11 06:36 | 卒論物語
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