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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「人権とメンタル・ヘルス」、サン・セルヴォロ島

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サン・マルコ広場からホテル・ダニエリなどの並ぶ湾沿いに少し進んだ、サン・ザッカリア(San Zaccaria)の停留所から、水上バス20番に乗って10分。
もともと古くは修道院だったサン・セルヴォロ島(Isola di San Servolo)は、現在ヴェネツィア県の所有となっており、手を入れてすっかり新しくきれいに生まれ変わって、会議場や(その関係者のための)宿泊施設、ヴェネツィア国際大学の本部などがおかれている。

そのサン・セルヴォロ島で、「人権とメンタル・ヘルス~フランコ・バザリアの展望の中で」というシンポジウムが開催された。
一般にはあまり知られていないかもしれないが、イタリアにはいわゆる「精神病院」が存在しない。ヴェネツィア出身の精神科医、フランコ・バザリアが、1950年代、当時の精神病院の実態、物理的拘束や残虐な扱いなど、患者の人権を無視した現状を目にし、これではならないと、まずは自分の足元から少しずつ改革をはかる。周囲の反発もたくさん受けながら、一方で多くの共感者、賛同者、特に当時の若者たちの力を得て、やがて1978年、「精神病院廃止」の法律が制定されるまでになる。
専門病棟に患者を閉じ込めるのではなく、患者本人や家族のみならず、関係者、非関係者、誰もが自由に相談したり訪問したりできる、地域の「センター」を作る。24時間サービスであることが基本。そこで、治療についてはあくまでも患者の意志、自由を尊重しつつ、病いそのものだけではなく、彼らが根底に抱える問題も含めて、総合的に対処する、というのが、バザリア派の考え方であり、それが現在の法律に基づいた国の方針(であるはず)。
故人バザリアの、愛弟子や協力者、信奉者たちを中心に、特に人権面から見た精神医療に関するイタリアの現状を、関係者たちが語った。

この中で1つ、特筆すべきことは、日本人ジャーナリストの大熊一夫さんが、フランコ・バザリア財団及びヴェネツィア県によって今回新しく創設された、バザリア賞を受賞されたこと。
世界でも類を見ない法律が30年も前のイタリアで成立した、その背景や、その後のイタリアの現状、特にその法律の下、今イタリアで、精神医療はどうなっているのか、センターは機能しているのか、あるいは患者や家族は???・・・そんな問題を、2007年9月から今年4月まで、「ルポ 精神病院をぶっこわした国イタリア」という記事を連載された大熊さんは、この問題について引き続き、1冊の本を準備中だそう。

アル中を装って日本の精神病院に入院してそのルポを書いた経験談と、日本の現状などを、あらかじめイタリア語で用意されてそれを読み上げた大熊さんに、ほかのパネラーや、会場の皆さんから大きな拍手と賛美がおくられた。
(上の写真は、受賞式後のパーティ会場にて、お隣は三井マリ子さん)

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今日のこの講演会が、もしヴェネツィアでなかったら、きっと一生知らないままに終わっていたかもしれない。そう思いつつ、暑い暑い一日、長~い日がようやく海の向こうに沈むころ、実は前世紀は、やはり隔離精神病棟として使われていたサン・セルヴォロ島を後にした。

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本島の町の明かりが、いつもよりちょっと嬉しく感じた。

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24 giugno 2008
by fumieve | 2008-06-25 08:16 | 学ぶ・調べる
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