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ヴェネツィア ときどき イタリア

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イタリア美術館事情


本日付の日刊紙、Corriere della Sera紙の文化面に、イタリアおよび世界の美術館の2007年・年間入場者数ランキングが出ていた。

世界トップ10
1. ルーブル美術館(パリ) 8,300,000人
2. ポンピドーセンター(パリ)5,509,425人
3. 大英博物館(ロンドン)5,400,000人
4. テート・モダーン(ロンドン)5,191,840人
5. メトロポリタン美術館(N.Y.)4,547,353人
6. ナショナル・ギャラリー(ワシントン)4,518,413人
7. ヴァチカン博物館 4,310,000人
8. ナショナル・ギャラリー(ロンドン)4,159,485人
9. オルセー美術館(パリ)3,166,509人
10. プラド美術館(マドリッド)2,652,924人

イタリア・トップ5
1. ウフィツィ美術館(フィレンツェ)1,615,939人
2. パラッツォ・ドゥカーレ(ヴェネツィア)1,466,898人
3. アッカデミア美術館(フィレンツェ)1,285,798人
4. リソルジメント博物館(ローマ)880,000人
5. サンタンジェロ城博物館(ローマ)843,792人

これはこれで、なかなか興味深い結果で、ここには、有料入場者数なのかどうかなどデータの詳細がわからないが、まあ、ほぼ、実態を示している数字と考えてよさそうだ。
ちょっとした驚きなのは、ロンドンではすでにナショナル・ギャラリーよりもテート・モダンの方が入場者数が上回っていること、プラドが10位に食い込んでいること。また、イタリアのほうでいうと、ウフィツィの1位は疑いがないにしても、ヴェネツィア、パラッツォ・ドゥカーレが2位なのは、グループの観光客がほぼ確実に(強制的に)入るからか?そしてかなり意外なのは4,5位に入っているローマの博物館だろう。
おそらく分類上の問題なのだろうが、たとえばローマのコロッセオも入場料を取って見学させている国立の「博物館」組織であることには違いなく、これを入れたらおそらく1位か2位に入ってくることは間違いない。

前置きが長くなったが、今日の記事は、このランキングそのものが主題ではない。
イタリアの美術館組織を見直し、改善・改革をはかるために、元・某米系銀行、某ファーストフード・イタリア社長が、なんと文化大臣の顧問として任命された、という。
どうせ投票権もないイタリアの政治の混迷は、理解しようにもしきれないものがあるし、忙しいのを言い訳に、最近は新聞などもロクに読んでおらず、知らなかったのだが、今日の記事はその某氏のインタビューだった。

つまり、あのウフィツィでさえ、世界トップ10に大きく水をあけられていることなどを問題視し、もっと効率化し採算性を上げ、世界ランクに食い込もう、ということらしい。
・・・はー。ためいきが出た。美術館に限ったことではないが、こういう数字にははっきり言って全く意味がない。だいたい、いくら有名な作品がいくつかあるといったって、ウフィツィと、ルーブルや大英博物館では、そもそも規模が全く違う。(かつ大英博物館は入場無料)そう思うと、確かにポンピドーは規模の割にずいぶん多いが、これはパリを訪れる観光客の人数なども考慮する必要があるだろう。
念のため断わっておくと、私は純・芸術主義では全くない。お金は回ったほうが、結局最終的にみんなの幸せのためだと思っている。(ただし、アートを単なる投機の対象としてのみ見るのには疑問を覚える)
ただ、イタリアのやるべきことは、単純に、ウフィツィの入場者数を増やすことではないはず。数年前から予約の可能になったウフィツィでさえ、季節や日によっては、ただ入るために数時間待ちになることもあるのを知らないのだろうか?(ただし、ウフィツィは現在、大規模拡張工事中。)
もちろん、現状のさまざまな問題、とくに、監視員など人員の質と意識、お手洗いなど最低減の設備等の改善・改良は必要だ。また、イタリアには、年間に有料入場者数が100人に満たないような博物館組織もあるらしく、それを見直すのは当然だと思う。ただ、単純に効率化のために廃館すればいいというものでもないだろう。
無数の美術・歴史・考古学遺産を持つイタリアでは、確かに、多くの作品やモニュメントが、日の目を見ずに保管庫に眠っているのは事実だ。修復や維持がままならずに朽ち果てていっているものも無数にある。ただ、それが、大都市の大きな美術館の中だけでなく、全国の、それこそ無名の小さな町、村の辻の礼拝堂にだってあったりするのがイタリアで、それこそ、評価・再評価・価値化すべきものなのに。

英仏や米国、大国にはりあっても無理だし、ろくなことはない。それよりは、なぜ、イタリアのよさを生かす方向で考えられないのか?もうすでに、観光客があふれかえり、交通網やサービスもマヒしている都市の美術館を少々いじっても意味がない。それよりは、たいていどこへ行ってもそれぞれの歴史を持ち、風光明媚で、食べ物もおいしいイタリア、知られざる魅力を、もっとどんどん地元から外から、認識させることが、結局イタリア全体の活性化につながるのではないかと思う。

私の知る限りの話だが、中規模の町では、いくつか、いい例がある。中部ではシエナ(トスカーナ州)、ペルージャ(ウンブリア)、トレヴィーゾ(ヴェネト)、ヴィチェンツァ(同)、など。
企画展を催す際、単独1カ所で開くだけではなく、いくつか関連の大小の企画展を、市内、あるいは隣町などと連携して行う。関連する土地、車でなければ行けないようなところをめぐる、オプショナル・ツアーを用意する。それから、忘れてはならないのは、地元のレストラン等とのコラボレーション。関連の特別メニューを用意したり、そこまでではなくても、お勧めレストラン・マップを用意し、たとえば展覧会の入場券で少し割引になる仕組みにする、とか。
問題がないわけではない。この手の企画展は、宣伝も大規模だから経費も莫大で、その宣伝の割に、展覧会そのものの質などが問われる例もある。だが、それで議論を呼ぶのもまた1つだし、淘汰されることもある。その企画展のために、わざわざ観光バスでイタリア各地あるいは国境を越えて乗りつける観光客も多いことを思うと、地域経済に与える影響も小さくない。
地元メディアや、スポンサー、地方自治体と地元の公共交通手段などの協力が不可欠だ。とくに、集客したはいいが、交通がマヒ、ではとんでもない。
そして、その期間が終わったあとも何かが残る、そうでなければ意味がない。
企画展のみならず、考古学エリアなどでも、たとえば季節限定のこういったイベントを行うなど、方法はあるだろう。
いずれにしても、それぞれの土地、事情に合わせたカスタム・メイドな対処が必要で、やっぱりファーストフード的なわけにはいかない。
そして、これこそがイタリアが世界に誇れる点なのではないかと思うのだが・・・・。

20 novembre 2008
by fumieve | 2008-11-21 08:01 | 見る・観る
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