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ヴェネツィア ときどき イタリア

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伊版「スター誕生」にイタリアの保守性を見る~「X-Factor2」ファイナル

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9時半から始まって深夜1時近く、たっぷり引きずった後、最後に栄光を手にしたのは、皮肉にもダントツな歌唱力を持つ、しかし最も意外で、最も無難な彼であった。

「つかぬことを伺うけど、Fumieさん、テレビ持ってる?」
・・・いったい全体、いつの時代の人々かと思われると思う。昭和?30年代???・・・だがともかく、今朝1番にかかってきた電話がそれだった。何かと思いきや、イタリア版スター誕生、X-Factorという番組(もともとは英国の番組、ちなみにイタリア語ではエックス・ファクトルと呼ばれている)が今晩、最終日を迎える。ある共通の友人は、それを毎週欠かさずに楽しみに見ていたのに、よりによって最終日の今晩、事情により自宅のテレビがなくなってしまい、見られなくて困っているという。
久々に数日間連続の休みとなり、いい加減に自宅を片づけて、いつも友人たちのお宅におじゃまするばかりでなく、たまには家にも来てもらおう、と思っていた矢先で、こちらもタイミング抜群。幸い、夕食の支度は電話をしてきた彼女が担当してくれるというので、1日かけて必死に片づけ&掃除をした。

ごく一部の例外をのぞいて、私はふだんニュース以外のテレビ番組はほとんど見ていないので、もちろんこの番組も見るのは初めて。要するに、歌手をめざす人々が、缶詰のまま番組内で歌などのレッスンを積んでゆき、毎週少しずつ選抜を繰り返して、最後にグランプリを勝ち取ると300,000ユーロの賞金プラス、CDデビューが保証される、というもの。オーディションから今日まで、なんと8カ月を費やしている。

最終審査、つまり今晩までに残ったのが3組。

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マッテオ(Matteo)、3738歳、リヴォルノ出身。一度若いころに歌手として売り出すも、泣かず飛ばず。今はほかの仕事をしながら、アルバイト的に歌を続けている。







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ユーリ(Jury)、23歳、ブレシャ出身。歌にはまだまだ不安要素が多いものの、作詞作曲部門では抜群の力を発揮。









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バスタルド サンズ・オブ・ディオニゾ(Bastard Sons of Dioniso)、22歳の3人組、トレント出身。もともと地元では4人のグループだったのだが、番組にはなぜか3人で参加。すでに驚異的な人気を誇り、トレントが主催したライブでは、2万人の会場に6万人が詰めかけ、急遽、別会場に巨大スクリーンを設置して実況。そこにはナポリからもバス2台をチャーターしてファンがかけつけた。



・・・とまあ、ここまでは、「毎週欠かさず見ていた」友人の受け売り。

3組がそれぞれ3曲ずつ歌うのだが、間にこれまでのエピソードや、批評、各地からの応援の声・・・と、いろいろはさんでともかく長い。それにしても、これまで毎週火曜日のゴールデンタイム(イタリアでは21時過ぎ~23時)、RAI2(国営放送第2チャンネル)での放送だったのが、この最終回は日曜ゴールデンタイムの、しかもRAI1(同第1チャンネル)での放送。思わぬ格上げに、司会者も涙ぐんだ、とか・・・。
ともかく、よほどの視聴率を見込んでいるに違いない。イタリア全国の家庭の、少なくとも1/3ぐらいは釘付けになっているのだろう。こちらもだんだん、紅白歌合戦でも見ているような気になってくる。

年齢もダントツに上、見た目は一番地味ながら、本家をしのぐ勢いで、ともかく完璧な声で歌がうまいマッテオ。一方、アイドルのような容姿で1曲目では危なげな様子を見せたものの自作曲ではのびのびと、歌そのもののよさも聴かせたユーリ。そして、伊製ビートルズといった風貌の、ビジュアルよし、リズム感よしのバスタルドはしかし、極度の緊張のためか、3曲とも出だしで音程がブレる。

だが、ここまで見て・聴いていると、誰もがみんなそれぞれ魅力的で、タイプが全くことなる3組で甲乙をつけるのは難しい。
「バスタルドのライブはさ、行っちゃうよね。」「え?・・・行っちゃう?」「行くでしょ」。
「でも、ユーリのライブはちょっと・・・行けないね。」「・・・うん、ちょっと私たち明らかに浮いちゃうね・・・」「この歌のCDは買いたいけどね。」「うんうん」。
「マッテオは・・・ディナー・ショーなら行く?」「・・・あーヴェネツィアに来てくれたらね・・・行ってもいいね」。
お茶の間では、すでに言いたい放題。それでも、歌プラスαの能力を見せた、将来性を最も感じさせるユーリが優勝!という我々の予測を大いに裏切って、なんと、3組のうち彼がまず落ちて、残る2組での優勝争いとなった。
かなりがっかりしているこちらにかまわず、テレビの中では、さらに盛り上がりを見せている。時はすでに深夜0時半を回っている(ちなみに番組表では0:35からはニュースとなっていたが、お構いなしといった状況)。
審査はどうやら、最後まで完全に視聴者の電話投票のみで決まるらしい(といっても、明細も分析も発表されないから、実際のところどこまでどうなのかはわからないが)。ここで日本なら、どう逆立ちしたって、第1にユーリ、最終でだってバスタルドが勝っているだろうと思うのだが、ここはイタリア。こんな時間だって、お父さんもお母さんも、おじいさんもおばあさんも見ている。そしておまけに、いつもはいい加減なようなイタリア人だが、意外とこういうところで、保守的というか、圧倒的に「歌唱力」重視だったりするからね、という、友人の分析通り、最後は37歳のマッテオが優勝した。
ここで思い切ってバスタルドを選べるくらいの、新しいイタリア、勇気あるイタリアになってほしい、という彼女の言葉も、とてもよくわかる。
だが、見た目の華やかさだけではなく、苦労を積み重ねて、そうして培った熟成した力をまっとうに評価できる、そういう国であるということ、どう頑張ったってマッテオ世代である私たちにとっては、実は結構いいことなのではないかと思ったりもした。

・・・はたして、次回はどんな才能が飛び出してくるのか?

彼らの歌については、同番組サイトよりダウンロードできる。
http://www.xfactor.rai.it/

19 aprile 2009
by fumieve | 2009-04-20 10:48 | 見る・観る
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