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ヴェネツィア ときどき イタリア

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ロンゴバルドの町、チヴィダーレ

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一度は絶対に見たい、とずっと思っていたものの、それを知ったのはもう何年も前のことで、もともともの覚えの悪い私は、教会や正確な場所の名前すら覚えていなかった。ただ、チヴィダーレに行けば、小さな町だろうから、きっとなんとかなるだろうと思った。

実際、町の中に入ると、そこここに、「Tempietto longobardo(ロンゴバルド小寺)」の標識があった。そうそう、何か小さい礼拝堂だったはず。

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果たして、会いたいと思っていたその彫像たちは、やはりそこにいた。
個人の礼拝堂といっていいほどの、小さな空間。はげかけたフレスコ画と、木彫りの立派な聖職者席。・・・その上に、真っ白の、6体の彫像たちが並んでいた。

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ローマ遺跡があって、中世の街並みが残って・・・という小さな町は、イタリアにおいては特にめずらしくない。
だが、このチヴィダーレを特色づけているのは、なんといってもロンゴバルド族の存在。ゲルマン民族に遅れること数世紀、アルプスを越えてイタリア半島にやってきたこの民族は、北イタリアを中心に、既存の、疲弊した町をおそっては、自分たちの公国を作っていく。

町作り、特に教会の建造にあたっては、もともと騎馬民族で建築技術を持たない彼らは、その土地にすでに根付いていた工法、その職人を使った。だが、彼らの教会美術の大きな特徴は、その中で多用されている大理石の浅浮彫。内陣を囲う柵にあたる石板や洗礼盤、あるいはアーチや枠組みなどの装飾に、みな一様に、平面に模様を刻みつけた浅い彫刻が使われている。

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私は個人的に、ひそかに「ビスケット彫り」と呼んでいるのだが、その模様は極めて形式的。十字のほか、シンプル化された動物や植物を、縄をからめたような模様がぐるぐると取り囲み、空間を埋め尽くしているのは、ケルト模様などにも似ている。面白いのは「ヒト」の表現で、これがなんともプリミティブというか、ヘタクソで頭でっかちのヘナチョコ人形みたいな姿をしている。

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ギリシャからローマに受け継がれた、立体的で写実的な彫刻からすると、ほとんど2次元と言っていいこのヘタウマ彫刻は、技術的にずいぶんと劣るものに見えるし、実際、長いこと過少評価され続けてきた。だが、そうではなくて、これが、この時代の彼らの美意識だったのであり、やこれがまたやがて、「西洋」文化の中にも影響を与えていく。

騎馬民族の例に漏れず、貴金属の加工技術に優れていた彼らの、埋葬品はたいそう豪華だ。
国立考古学博物館(Museo Archeologico Nazionale)で、その数々を見ることができる。彼らの装飾品の中で、特に知られているのが、1つは薄い金の板に模様を打ちつけた十字架。

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これらはたいてい、十字の四隅に小さな穴があいていて、故人の胸の部分に縫い付けて埋葬したとされる。

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もう1つは、おおぶりでこまかな細工の入ったバックルや留め具、ピンなどの一連の装飾品。その中でも、金に間仕切りをしてガラスを流し込む、クロワゾネという方法による細工ものは今でも立派に豪華なアクセサリーとして通用する。

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そして、この貴金属にほどこされた模様をみてもやはり、平面的であること、そして動物の絵はシンプルながらデザイン的にも優れていてウマイのに、人の姿はみな、ヘタウマなのがなんだかおかしい。もともとは貴金属を使った特殊な表現方法が、おそらく大きな大理石の板にも適用されていったのだろう。

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・・・と、話が長くなったが、そんなロンゴバルドの遺産のたくさん残るチヴィダーレで、この聖女たちの彫像は明らかにほかと一線を画している。浅浮彫りでない、ほとんど丸彫りに近い彫像は、チヴィダーレのみならず、各地に残るロンゴバルド美術の中でも、少なくとも現存する唯一無二とされる。また、顔の表情や衣服も、ローマ時代のそれに比べればずっと形式的で「固まっ」ているが、それでも、ヘタウマというよりはむしろ、優雅で美しい。(ある友人は、教科書の写真を見て「お人形さん」と呼んでいた)

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そしてさらに、唯一無二なのは、なんとこれ、アーキトラーヴやアーチなども含めて、大理石ではなく、石膏でできていること。
長身で直立不動、大きく目を見開いているのは、そういえばちょうど、ラヴェンナのモザイクを思わせる。衣装もそれに近い。実際、これを作ったのはビザンチンの職人とされる。
通称ロンゴバルド小寺(Tempietto Longobardo)、サンタ・マリア・イン・ヴァッレ礼拝堂(Oratorio di Santa Maria in Valle)は、同名の修道院の中にあり、8世紀に、当地を支配していたロンゴバルドの宮廷礼拝堂として建てられた。
フレスコや木彫ももちろん美しいのだが、ここでは、このミステリアスな聖女たちに釘付けだ。丸彫りとはいえ、よく見るとほとんど凹凸のない、いわばこけしのような体に、布のひだや装飾を刻みつけた、だから部分部分で見ると、実は2次元的。それでも、なぜ、この丸彫りの彫像を作ったのだろう?また、そもそもなぜ、大理石でなく、石膏なのか。

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このチヴィダーレ、イタリアのほかのロンゴバルド町と組んで、Italia Langobardorumとして、ユネスコ世界遺産の認定の申請をしているらしい。今年6月にスペインで行われる認定委員会で、はたして無事選定されるかどうか、お楽しみ!

美術館内は撮影禁止のため、小寺以外の写真は、
http://friuliveneziagiulia.beniculturali.it/
www.fotobank.ruから拝借した。

21 aprile 2009
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by fumieve | 2009-04-22 07:54 | ほかのイタリア
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