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ヴェネツィア ときどき イタリア

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ゴリツィア県立博物館(モード&装飾、および大戦)

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Musei provinciali di Gorizia-
Museo della Moda e delle Arti Applicate
Museo della Grande Guerra
Gorizia
Tel. 0481 533926
http://www.provincia.gorizia.it

街のヴィットリア広場(だったと思う・・・)からおを目指して坂道を登っていって、その敷地内に入って、一番上の城壁の手前、左側のシンプルで小ぶりな建物に色とりどりののぼりがかかっていた。1562年、シモーネ・タッソーの家、とある、ここがゴリツィア県立博物館だった。

先日紹介した、映画衣装専門の工房、ティレッリを紹介した「オスカーのアトリエ」展は、ゴリツィア県立モード&装飾博物館(Museo della Moda e delle Arti Applicate)の企画特別展だった。だからほんとうは、先にこちらの本館に来るべきだったのだが、あの日、ちょうどその登り口のところで、イタリア国営放送RAIがテレビ映画の撮影をしていて、その坂道が通れなかったので、先に、ふもとにある企画展を見に行ったのだった。(余談だが、その映画というのが、ヴェネツィア出身の精神科医バザリアのドキュメンタリー映画で、製作中なのを知って気になったとたんに、行きあたったのは、偶然とはいえなんともおかしかった。)

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隣町グラディスカ伯爵領(当時)ではおそらく17世紀から、そして、記録にはっきり残っている範囲では18世紀後半から、このグラディスカ~ゴリツィア一帯が、桑の木の生育に向いた気候であることから、絹産業が発達した。ヴェネツィアやフリウリ各地から、織物業者が集まってきたという。
だが、ヴェネツィアやジェノヴァ、フィレンツェなどが、高級絹織物の産地として知られるのと違い、このゴリツィア~グラディスカで生産したのは、同じ絹織物でも、タフタやダマスコ織など、シンプルなもの、中級品だった。王侯貴族や、大商人の豪華な衣装ではなくて、町や村の人々の、晴れ着用の生地といったところ。

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興味深いのは、18世紀にはタフタのリボンや組み紐などの名産地であったらしいこと。「ベルサイユのばら」で思い当たるように、18世紀は「リボンの世紀」と言われるほど、初めは男性から、やがて女性の服装でのリボン使いが欧州で大流行したから、美しい模様のリボンは次から次へとひっぱりだこになったことだろう。今で言うところの、すきま産業、だろうか。
博物館は、基本的にすべて地元からの寄贈品で成り立っていて、そんな当時の絹織物や機織り機、見本帳などが並べられている。帽子屋や靴下屋の道具などもめずらしく、面白い。

同じ建物内に、大戦博物館(Museo della Grande Guerra)も入っている。

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20世紀の、二つの大戦を示すのには、イタリア語ではGrandi Guerreと複数形になるはずが、ここで単数形なのは、イタリア統一王国から第一次世界大戦までの、この地域、イゾンツォ川をはさんでのイタリア・オーストリアの攻防戦のことを示しているため。
その「大戦」の写真、武器や道具などの資料に、塹壕の再現など、かなり充実している。説明用の地図を見ると、現在のヴェネト~フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州、オーストリア、スロヴェニアにまたがる地域で、今日はこちら、明日はこちら、と国境が変わっていることがわかる。そして特に、まさにその前線となっていたのが、ゴリツィア~グラディスカを流れる、イゾンツォ川であった。

国境の町の県立装飾博物館、その特別展が予想を超えてよかっただけに、実は、本館にも必要以上に期待していた。入って、質素な展示品と、古びた展示法に最初は少々がっかりしてしまったのだが、暑さでグラグラの頭を落ちつけつつ、ゆっくりと見ているうちに、これはこれでいいのだということに気がついた。
ここは、世界級の装飾美術のコレクションを誇るロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館でも、パリのルーヴルでもない。また、かつてアドリア海の女王と呼ばれたヴェネツィア共和国の博物館でもない。
小さなコムーネ(Comune、市)が乱立するイタリアでは、「県」が日本でいうと実際の「市」くらい、「州」が「県」くらいの規模だといえる。そんなイタリアの小さな県の小さな博物館に、豪華な建物や世界の名作は必要ない、とは言わない。だが、まずはその土地の歴史や文化を評価し、遺産を保存・公開して、次の世代に伝えていくことこそが、地域の博物館の重要な役割であるはずで、その点において、この2つの博物館は正当でまっとうだといえる。
遠くからむやみに人を集める、人よせパンダ的な博物館ではなく、あくまでも地元のための郷土博物館といえばいいだろうか。
感心したのは、この小じんまりとした郷土博物館が、先日の「オスカーのアトリエ」展のような規模の企画展を開く力を持っているということ。それが、地元のアトリエ、地元出身の仕立て屋のことであれば、まああくまでも地元輿しの1つとして理解できるのだが、地元に全く関係ない企画展というのは実は、イタリアでは大都市でも結構珍しい。

はっきり言って、これだけを見るために、わざわざ遠くから見に行く博物館ではないかもしれない。だが、近くまで行って、もし18-19世紀の絹産業や、当時のファッションにちょっと興味があったりしたら、見たらきっと面白いに違いない。
同じように、イタリア現代史に興味がある人ならば、「大戦博物館」はいろいろと得ることがあるだろうと思う。
(展示品の写真は公式HPより借用)

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28 luglio 2009
by fumieve | 2009-07-29 06:38 | 聞く・聴く
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