人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

ヴェネツィア ときどき イタリア

fumiemve.exblog.jp

これもローマ! 「一帝国の絵画」展

これもローマ! 「一帝国の絵画」展_a0091348_3184815.jpg


スクデリーエ・デル・クイリナーレ、ローマ
2010年1月19日まで

Roma. La pittura di un impero.
Scuderie del Quirinale, Roma
24 settembre 2009 – 19 gennaio 2010
http://www.romaguide.it/mostre/pitturaromana/pitturaromana/html

ローマ帝国時代の絵画を、まずは時代別、様式別に分類して展示。油彩が誕生するはるか昔のことで、フレスコ画が中心。
壁の漆喰の、生乾きのところに顔料を使って描いていくフレスコ画は、現代の我々が考えるような「絵」、美術館で鑑賞したり、ギャラリーで気に入ったものを見つけて家に飾ったりする、そういうものではなくて、言ってみれば、それぞれの家の、空間と必要、そして当然予算に応じた、オーダーメイドの壁紙みたいなもの。
だから、ポンペイやローマで発掘されたもの、その一部を、ただ「絵」として切り取ってみるだけではあまり意味がないとも言えるが、それでも、その時代ごとの様式や、その移り変わりなどを見ていくことはできる。
あくまでも期間限定の企画展だというのに、広い空間を最大限生かした、まるで常設のようなかなり大きなレパートリーの展示に、思わずため息が出る。




これもローマ! 「一帝国の絵画」展_a0091348_3275897.jpg


ボードの解説によると、ローマ時代のフレスコ画は、主に4つのスタイル(時代)に分けられるという。
第1フェーズは、構造様式。紀元前4世紀から前80年ころまでに見られるもの。すでにギリシャで用いられたスタイルで、色大理石や彫像などのイミテーション、騙し絵を特徴とする。

第2フェーズは、疑似効果および、劇場風場面に特徴づけられる。ギリシャ神話のモチーフが好まれるが、その中でもウリッセの冒険の数々のシーンが人気だった。そういった場面を、壁一面に大きく描くのではなく、フリーズやパネル内など、あくまでも壁の一部にミニチュアに描いてあるそれらの絵は、しっかりしたデッサンながらすばやい筆致で完成されており、まるで印象派のよう。

第2-2とされるフェーズでは、よりエレガントになるが、それ以前より軽く、ある意味簡素になる。植物モチーフが増えてくるのも特徴。

これもローマ! 「一帝国の絵画」展_a0091348_321335.jpg


第3フェーズは、装飾的様式。紀元前1世紀後半から、期限後1世紀中盤にかけてみられ、壁からは騙し絵や3次元風の要素が消え、植物模様と燭台によってのみ仕切られるようになる。
ナポリ考古学博物館所蔵、ポンペイで発掘された「壁」の、赤や黒がぴったりときれいに塗られ、つやつやに輝いている様子は、フレスコというよりは漆塗りに見え、3次元空間ではなく、縦・横のシンプルなラインに区切られたスタイルは、まるで18世紀のシノワズリ(中国趣味)のインテリアのよう。

展示自体は、おそらくスペースの関係であろう、第1~4フェーズが微妙に前後する。
第4室の、ファルネジーナ荘(ローマ国立博物館パラッツォ・マッシモ所蔵)の壁は第2フェーズの代表。やはり黒く塗り込めた壁の上に、ほとんど透明のような押さえた色遣いで神話の情景などが描かれている。縁を飾る、ぶどうの蔓、柱の上に立つ人型の燭台といい、バランスよく優雅で美しい。

第4フェーズは、(再び)立体的疑似様式。これは、ネロ帝在位期(起源後54-68年)に確立する。これまでの第1~3様式のいろいろな要素を取り入れた、折衷様式でもある。

上の階は、テーマ別によるローマ「絵画」の紹介。神話、日常生活の場面・・・あたりは落ち着いて見ていたのだが、肖像のところへ来て、あっと思わず足が止まった。
フレスコがほとんどだと思っていたこの展覧会で、ここへきて、当時の美術的手法オンパレード状態になった。

まずは、実物より2周りほど小さいであろう、女性の肖像のモザイク。これは、建物の壁や床を飾っているものと違い、1つ1つのテッセラ(四角いピース)が数ミリの細かいもの。きれいなグラデーションで、生き生きと描きだされたその顔は、今でもそのあたりにいそうな感じ。鼻筋、少し開きぎみのくちびる、きょろんとした目の、左側は若干三白眼ぎみ。その唇や、真珠のつやの見事なこと。

隣には、ポンペイの肖像画といえば、これ!みたいな有名な、夫婦の肖像画。

そして、小さな小さなメダルはガラス製。ガラスの中に金箔を使って肖像を描いている。

これもローマ! 「一帝国の絵画」展_a0091348_3222613.jpg


さらに、その後に続く一連の肖像画は、この特別展の目玉と言ってもいいだろう。エンカウスト(eucausto)という手法で、蝋に絵の具を混ぜて熱により色を固定させるもので、古代ローマではよく使用されたが、その後廃れてしまう。
エンカウストというと、シナイの聖カテリーナ聖堂のイコンが特に有名だが、これらは聖人像ではなく、一般の人々の肖像画。遺体を麻布で包んだ際、布の顔の部分にはりつけたものだそうで、言ってみれば「死に化粧」か。
このエンカウストによる絵画は、今や北アフリカにしかなく、というのも砂漠地帯の乾いた気候が、奇跡的にこの絵を2000年近い年月から守ってきたから。今回の展示は、エジプト、ハワラのファイユーム・オアシスなどで発掘されたもの。(所蔵はそれぞれ別)
蝋を使っているために、フレスコともテンペラとも違う、まるで油彩のような自然な色つやに目を見張る。この珍しい絵画をこうしてまとめて見るのも貴重な機会で、それだけでも、この展覧会の価値がある。

これもローマ! 「一帝国の絵画」展_a0091348_3251250.jpg


建築や彫像につい目を奪われがちな「ローマ帝国」を、「絵」という観点から見直す、好ましい展覧会だった。

(写真はすべて公式HPより拝借)

21 ottobre 2009
by fumieve | 2009-10-22 08:15 | 見る・観る
<< 「権力と恩寵 ヨーロッパの守護... 私はどこでしょう・・・? >>