人気ブログランキング | 話題のタグを見る
ブログトップ

ヴェネツィア ときどき イタリア

fumiemve.exblog.jp

La sconosciuta(見知らぬ女、邦題は「題名のない子守唄」)

La sconosciuta(見知らぬ女、邦題は「題名のない子守唄」)_a0091348_23191137.jpg


もう1年近く前のことだが、友人が「とてもいい映画なのだけど、日本にいるとわかりづらい面もある。(北)イタリア在住のあなたの目から見てどうなのでしょう?」とメールを送ってきたことがあった。
先日帰国した際にその友人が、おおらかにも1年後に返してくれればいいから、と言ってDVDを貸してくれた。

イタリア北東の国境の町、トリエステが舞台。いまわしく悲しい過去を背負った外国人、ウクライナ人の女性イレーナは、あの手この手を使って、あるイタリア人家庭に家政婦として入り込む。
それは、彼女の実の娘探しであった。
細かいカールのかかった栗色の髪、そして防衛本能に問題があるとされる小さな女の子テア。やがて徐々にイレーナに心を許していくテアには、確かにイレーナの面影が。




数年前にイタリア映画なのに見ていなくて、そのうち、と思っているうちに時間がたっていた。ひょんなことでもう一度思い出したのは、別の友人が持ってきてくれた雑誌「クレア・トラベラー」のヴェネツィア特集の中の映画紹介。
「ヴェネツィアが舞台の映画、完全リスト」というページの1番下の方にこのタイトルが載っていて、え!?と思ったのがその名前。ともかく、こないだのヴェネツィア映画祭に登場した、話題になった人々が勢ぞろいしている。

まず、監督は「ニューシネマ・パラダイス」で知られるジュゼッペ・トルナトーレ、先の映画祭では「バアリア」でコンペ参加。トルナトーレといえば、音楽は当然、モリコーネ。バアリアも「子守唄」ももちろん一緒。
そして、イレーネを演じたロシア人女優、クセニア・ラパポルトは、イタリア映画「La DoppiaOra(対の時間、カポトンディ監督)」でやはり東欧からの移民女性を演じ、最優秀女優賞。このときは、映画の中ではブロンドのストレート・ヘアで、いかにもそれらしい顔つきだったのが、受賞式には栗色のカーリー・ヘアでゴージャスに登場してまるで別人のようだったのだが、「子守唄」の中では逆に、娼婦時代はブロンドのストレート、「過去を背負った女」は栗色カーリー、やはりまるで別人になっていた。・・・髪型やメイクでここまで変わるのは、やはり日本人には難しいだろう。もちろん演技もそれだけすばらしい。
「Lo spazio bianco(白い空間、コメンチーニ監督)」で女優賞の「本命」とされていたマルゲリータ・ブイは、ここでは検事役で特別出演。どこかで見たけど誰だっけ・・・とこれまた全然違う顔になっていて、うなる。
面白かったのは、娼婦時代の元締め、ワルを絵に描いたような「黒カビ」役の、ミケーレ・プラチド。イタリアではもはや大物俳優だが、映画祭には監督として「Il grande sogno(大きな夢)」を出品。この最低でおぞましい「黒カビ」の迫真の演技は、もはや演技と思えず、まるで漫画。(ほめてます、念のため)

で、この「子守唄」、ヴェネツィアで撮影したかというと、それは・・・???ほんとにどこかほんの一部はそうなのかもしれないが(ヴェネツィアとわからない部分で)、基本的にはヴェネツィアは全く登場しないし、テーマにもあまり関わりがない。

友人が言ってきたのは、外国人の家政婦や娼婦という存在、そして「流暢にイタリア語をしゃべっているような彼女が、実際はやはり外国人なまりがあるのかどうか?」という点。
これについてははっきりイエス。
イレーナは、もちろんイタリア語で話しているのだが、そこには終始、東欧系、スラブ系らしいなまりがある。あまりにも典型的なので、多少演技もあると思うが、DVD特典おまけのインタビューでもやはりそうだったので、言葉についてはかなり地を生かしているのだろう。「対の時間」ではここまで感じなかったように思う。

ほかに、DVD(日本版)ならではの補足を。

まず、ああ、日本語字幕の存在のなんとありがたく簡単なことか。
もともと説明くさいセリフが長々とある方ではなく、むしろ言葉が少ないから、字幕もとてもきれいに訳され、きちっと収まっている。・・・というか、そんなことを考える間もなく、もう耳は勝手にすっかりさぼって、目が字幕を読んでしまう。だって聴いてるより断然簡単かつ早いんだもの・・・。

もう1つ、非常に興味深かったのは、日伊両方のトレーラー(予告編)が、その2つで結構違うこと。
悲運な女性の母性愛を強調しているのが日本編なら、オリジナル(イアリア)編は、もっと広い意味での女性の壮絶な悲劇、とくに移民のそれを強調する。別の言い方をすると、イタリア編はより暴力的なシーンの細かいカットをつなぎより過激に、刺激的に、一方、日本編ではより情緒的、モリコーネの音楽をたっぷり聴かせ涙をそそる。1本の映画として、監督が意識したのはそのどちらもであって、予告編ではどうやらそれぞれが両極端に走ってしまったようだ。

もちろんフィクションだが、現代のイタリアの闇を少しだけえぐりだした、いい映画だと思う。(あまり誰も言わないが、トルナトーレ監督は、名作と凡作の落差が激しいような気がするのは私だけだろうか?)

2009年ヴェネツィア映画祭での関連の案内はこちら:
受賞式 9月12日
La doppia ora(対の時間)9月10日
Lo spazio bianco(白い空間)、Il grande sogno(大きな夢)9月9日

La sconosciuta(見知らぬ女、邦題は「題名のない子守唄」)_a0091348_23203445.jpg


*というわけで、ヴェネツィアおよび近郊にお住まいの方、今なら日本語字幕つきDVDあります。

30 gennaio 2010
by fumieve | 2010-01-31 18:15 | 映画
<< こんな日にはあったかパスタで~... 本日の獲得品・・・アナテーマに... >>