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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「むかしむかしあるところに、きちがいのまちがありました・・・」

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C’era una volta la città dei matti...
監督 Marco Turco
(上の画像はRAIサイトから拝借)

http://www.rai.it/dl/portali/site/articolo/ContentItem-5acb81fc-de6b-4ddf-8dde-85f3919fdd54.html

恋は気の病い?
知り合って間もない女性に恋をし、プロポーズをするヴェネツィア生まれの若き精神科医、フランコ・バザリア(Franco Basaglia)。そんな自分が「きちがい」と呼ばれなかったのは幸い、それはおそらく単純に、自分が精神医学を学んでいたから、あるいは「金持ちだったから」、と言う。

通称「バザリア法」、精神病院撤廃をうたうこの法律制定の立役者、精神科医フランコ・バザリアを扱うフィクション・ドラマが、イタリア国営放送RAI1で、昨日・今日2晩に分けて放送された。





精神の病いとは何か?
心を病んだ人々を、病院に閉じ込めるばかりか、手足を縛り、ときには檻に入れ、摂関や電気ショック療法が当たり前だった時代。
それはおかしい、それでは彼らの「症状」を改善することはできない、と主張するフランコだが、当時の精神病院は、患者を治療する場ではなく、世間から隔離するための場所だった。
既存の権威に受け入れられないフランコは、ユーゴスラヴィア(現スロヴェニア)と国境を接する町、ゴリツィアの精神病院長として、ていよく追い払われる。
大学で学んだよりもさらにむごい現状を目の当たりにするフランコは、1つ1つ、改善するところから始める。手足を開放し、檻をなくす。ベッドの脇にナイト・テーブルを置き、入院時に取り上げた、個人の所有物を個々に戻す。思い出の写真や宝物、小さなものが個人の心をなぐさめ、薄汚れたおそろいの囚人服でなく、個々の服装が自分らしさを取り戻す。そして、患者全員(男女は別だったが)による、集会。初めはビクビクと無言だった患者たちが口を開き始める。
それぞれ個性豊かな患者たちの間で、一種の役割分担と自治が生まれる。

簡単なことではない。
多くの敵。最初は院内のスタッフ。ときには患者たち。
敷地を囲っていた網を取り壊す。外出。そして、実質はここに「捨てられて」いた患者たちの、それぞれの家族の元での1日滞在。
うまくいくことばかりではない。明るい光が見えたかと思われたところでの悲しい事故。
世間の抵抗。
だがフランコは自分の信念を曲げず、患者1人1人へ根気よく接し続ける。少しずつ明るい笑顔を取り戻していく彼らが、彼を前へと推し進める。

そんな彼の前に立ちふさがるのは、世間でも行政でもない、患者たちの家族でもあった。世間から隠し、精神病院に押し込めたはずの「異常者」が自分の現在の生活を乱すことへのおびえ。かたくなな抵抗。

ある事件をきっかけに、ゴリツィアに辞表を出したフランコ。米国へ旅立つ準備をしているところへ、トリエステの病院をみてほしい、と依頼が届く。
同じことの繰り返し。だが今度は、経験と賛同者の存在によって、すべてがよりスピード・アップして進んでいく。
同病院はモデル・ケースとしてイタリア全国どころか、世界中から医療関係者や研究者らが見学に訪れるようになる。
だが、その成果とは裏腹に、彼らは自らの信じる仕事のために家族を犠牲にしていた。患者とは通じ合うことができるのに、息子と心を通わせることのできないフランコ、毎日帰りが遅く小さな子どもたちの面倒を見られない、看護婦のニエヴェス。
だが、動き始めた山はもはやとどまることができない。ローマでは、精神病院廃止を法制化するための議論が進んでいた・・・。

日本のジャーナリスト、大熊一夫さんが、このフランコ・バザリアの活動と、その後のイタリアの現状についての調査・研究で評価され、2008年にヴェネツィアで「第1回バザリア賞」を受賞されたのはその際に紹介した通り。
また、まだ読んでいないので紹介できなかったのだが、この研究をまとめた著作が昨年発行されている。
「精神病院を捨てたイタリア 捨てない日本」(岩波書店)
この件に関して、興味のある方はぜひそちらをどうぞ。

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ドラマは、上記サイトで全編視聴可能。(昨日の放映分がアップされているので、今日の分も明日にはアップされるでしょう)

完全に余談だが、フランコ役のFabrizio Gifuni(ファブリツィオ・ジフーニ)が、ちゃんとヴェネツィア・アクセントでしゃべっている。サイトの役者インタビューを見ると「ふつう」にしゃべっているので、あれはやっぱり役作りのうちのよう。拍手。

8 febbraio 2010
by fumieve | 2010-02-09 09:59 | 映画
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