(この原稿は、数年前にまとめたものに、加筆・訂正を加えています)
「モザイクの旅」シリーズ
初夏~イスタンブール[回想]
1:
導入編
2:
聖ソフィア大聖堂
3:
聖イレーネ教会
4:
聖サルヴァトーレ・イン・コーラ教会
5:
パンマカリストス教会
6:
キリスト教会とモスク
黄金のモザイク、万能の神キリストの図の連続に少々疲れた目に新鮮に映るのは、グレート・パレス・モザイク博物館だろう。博物館、といっても、あれこれいろいろなものがケースに陳列されているのではない。展示されているのは、この場所で発見された、5世紀の皇帝の宮殿と推定されている建物の跡。舗床モザイクが一面に広がっており、それをぐるりと一周、上から眺められるようになっている。
床モザイクらしく、ちょうど大きなカーペットをひらりと広げたように、元・部屋の端だったと思われる部分には、つる草模様の縁取りが伸びる。その内側、部屋の中心部には、狩の場面、子どもがあひるを追いかける場面、生活の場面・・・など、自然主義的でリアルなシーンが一面に描かれている。
人間たちもともかく、動物たちのリアルさといったら例えようもなく、ヤシの実を取る猿はもちろん、架空の動物でさえ、妙にリアルに生き生きと描かれている。
背景は白。そのために、鮮やかな色合いが引き立つ。そしてこの白地も、単色のようでいて実は、テッセラと呼ばれる数センチ四方の1つ1つのモザイク片が、いちょうの葉の形に並べられていて、独特のリズムを編みだしている。このいちょうモチーフは、サンタ・ソフィア大聖堂や、コーラ救世主教会にも登場する。
一度廃れて、数世紀も経ってからまた、リヴァイヴァルした模様らしい。
表現力、色使い、どこをとっても、明らかに、完全に「ローマ」の伝統をきちんと受け継いでいる。
だが、ここのモザイクで面白いのは、1つ1つの場面、場面の、それぞれがお互いに全く繋がりがなく、無秩序にばらまかれている(と思われる)こと。もちろん、全体の統一感はあるものの、あくまでも散りばめられている、という感じなのだ。
皇帝の、地上の楽園だったのだろうか。それとも、これも1つ1つ、何か意味があったのだろうか。現代に生きる私たちは失ってしまった鍵が、どこかに隠されているのかもしれない。
まだまだ、説くべき謎は多い。
2 novembre 2010