ヴェネツィアに観光にいらした方ならおそらく、それがツアーであっても個人であっても少なくとも一度は、パラッツォ・ドゥカーレ(Palazzo Ducale、総督館)を見学されたことがあるのではないだろうか。
いまどきの言葉(?)でいえば大統領府、つまり大統領官邸と国会、裁判所を全部ひっくるめた、かつてのヴェネツィア共和国の海の玄関に向かって白とピンクの大理石の模様が印象的な建物は、そのお隣、サンマルコ大聖堂と並んで、ヴェネツィア観光の筆頭の観光ポイントだから。
そして中には、そのアーケードの下の壁に直接くっついたベンチに座って、歩き疲れた足や、たくさんのものを見過ぎてクラクラする頭を休めたりしたこともあるかもしれない。
だが、もしもう少し、ほんの少しでも時間があったら、そのアンバランスなまでにぶっとい円柱の上に乗っかった柱頭を、ぜひともじっくりご覧いただきたい。
遠目にはアーカンサスの葉模様のふつうの柱頭にみえる。だが、近づいてよく見ると・・・実はさまざまな彫刻で飾られている。
角の柱は、テーマ「宇宙」。神様が人間を造る場面のほか、12星座が描かれている。たとえば上は、おひつじ座とさそり座。
こちらは、ヴェネツィアのシンボルのライオンに似ているが羽根ははえていなくて、ここではしし座と、手に掲げられているのは太陽。
うお座ざといて座。
やぎ座とみずがめ座。
建物に向かってその右隣は、賢人たち。いろいろな人種・民族の「顔」になっているところが特徴。
徳と悪徳。・・・で、これは何の悪?
動物たち、その1。
その2。
鳥たち。
ほかに、「騎士と淑女」とか、「人の年齢の寓意」、「12カ月の寓意」、などなど。
イタリアで、とくに中世の教会でしばしば同じようなテーマの彫刻を見ることができるが、これらは「百科事典的」と言われ、つまり(当時の)世界の万物を表現している。教会にあるのは、唯一絶対の神=世界の創造主であるから。だが、ヴェネツィアで、教会でなくこのパラッツォ・ドゥカーレという政治の中心の、しかも建物を支える柱になっているのはつまり、ヴェネツィア共和国が世界の万物に支えられていると同時に、彼らを支配していることを暗に示している、とされる。
傲慢?
まったくその通り。でも、「アドリア海の女王」と呼ばれたそのころのヴェネツィア共和国は、そのくらいの力と勢いがあった。
もっとも、13-14世紀につくられたこれらは、実は現在はほとんどレプリカ。オリジナルの一部は、パラッツォ・ドゥカーレに入ってすぐ1階の左側の何室かに展示されている。
今は昔の、ヴェネツィアの名残。でも、そんな壮大な歴史など考えなくても、彫刻たちはそれだけで、見ているだけで楽しい。
17 marzo 2011