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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「アルメニア 一文明の痕跡」展、コッレール博物館ほか

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Armenia
Impronte di una civiltà
Museo Correr, Museo Archeologico Nazionale, Sale Monumentale della Biblioteca Nazionale Marciana Venezia
16 dic 2011 - 10 apr 2012
www.museiciviciveneziani.it

(写真はすべて公式サイトから拝借)

アルメニア。
「アルメニア」と聞いて、1つだけ思い出すことと言えば、はるか昔(高校時代)、吹奏楽で「アルメニアン・ダンス」という曲を演奏したことぐらい。途中、8分の5拍子とか不規則なリズムのところがあって、それが印象的だった。
お恥ずかしながら、現存する国名であることは一応知りつつも、正確にどこにあるのかもよく知らず、さらに困ったことに、展覧会場で地図を見ても、なおまだよくわからなかった。(ごめんなさい。超方向音痴、地理音痴なもので)強いて言うと、ヴェネツィアより緯度がわずかに低いらしいことにかなり驚いた。




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コッレール博物館と、国立考古学博物館および国立マルチャーナ図書館の記念閲覧室は、もともと中でつながっていて、一枚のチケットでそのまま入れるとはいえ、市立と国立とで組織としては完全に別。ところがそのつながったところを利用して、3博物館の常設展会場ぶちぬきで「アルメニア」展をやっている。
もともとヴェネツィアにはアルメニア系修道院も、文化会館的組織もあるから、それなりに関係が深いのだろうとは思っていたが、とくに積極的に知ることもないまま、ポスターの写真に惹かれてふらりと企画展を見に行った。

出版業が重要な産業の1つであったヴェネツィアで、アルメニア語の書物が初めて出版されたのが1512年。今年はその500周年にあたり、そのための企画展だった。

アルメニア高原に人が住み始めたのは、紀元前数千年前にのぼる。当地で採れる石を使った彫刻や建築が発達するが、紀元前から使われていた植物、動物のモチーフが、やがてキリスト教の装飾の中に取り入れられていったのだという。
それはそれは見事な「ビスケット彫り」(勝手に命名)に心躍ったが、これは比較的新しく15-6世紀のもの。十字架の4つの隙間に天使がいて、それが植物模様とうまくからみあって美しいハーモニーを醸し出している。中世初期のイタリア北部などに見られるビスケット彫りのモチーフが、さらに細かく、繊細に発展しており、すばらしい。また、13世紀のものは、十字架の4つの隙間にさらに十字架が埋め込まれていた。入れ子の十字架はあまりみかけない、独特なものと思われる。
そして、フィリグラーナ(金糸細工)による聖遺物入れなどもあるのだが、今回の主役はやはり、書物、そして伝達・記録の手段としての「文字」なのだろう。4世紀に、当時でももっとも早くキリスト教を取り入れたというアルメニア人は、西暦400年ごろには自分たちの言語に合わせた筆記方法が必要なことに気づき、アルメニア・アルファベットを作り出したのだという。パネルで大きく表示された文字をたどるとその発音が出る、そんな装置も置いてあった。
9世紀、10世紀の、羊皮紙にインクで手書きした写本から、16世紀、17世紀の稀少本まで。聖書の挿絵など、見慣れたような本に、まったく見慣れる文字が書かれているのはなんだか不思議だ。だが、民族にとって1つの共通の言語という、それそのものが文化であるということを改めて意識させられる。

そんな完全に異国趣味いっぱいの書物の中で、個人的におお、と思ったのが2つ。

当時のヴェネツィアが、国際都市であったことを示す材料にほかならないのだが、1つは16世紀末に発行されたチェーザレ・ヴェチェッリオによる「古今東西世界の服装」(ご参考)。このブログで何度も紹介しているこの本は、タイトル通り世界のさまざまな人が登場する上に、出版された本だけあって稀少とはいえイタリア国内だけでも所有している図書館も多く、こういった展覧会の場で目にすることも多い。
ところが、思わず「あっ!」と声を上げてしまったのは、グローヴェンブルグ(ご参考)。

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似たような本、というよりは18世紀のこちらの本が、どう見てもヴェチェッリオを底本にしているのだが、こちらは印刷された本ではなく、画家であったグローベンブルグの水彩によるもので、従って当然、この1冊しか存在しない。コッレール博物館が所蔵しているからこそ、今回展示されているが、こればかりはめったに見る機会がない。ガラスにへばりつくようにして見てしまった。(もっとも、私が見たときは「アルメニア人」のページではなく、ペルシャ人のページが開かれていた・・・あえて展示替えをしているのか・・・)

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(ああっしかもよく見ると垂れ袖・・・)

こうして見ると、アルメニア人は宗教はキリスト教信者が多いにしても、格好はどう見ても、トルコなどに近かったよう。

マルチャーナ図書館の、豪華な記念閲覧室に、このグローベンブルグほか、アルメニア語の希少本がずらりと並ぶ様子は圧巻。書物や文字を通して一民族の文化をたどる企画展に、この場はふさわしい。

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29 feb 2012
by fumieve | 2012-03-01 09:35 | 見る・観る
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