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ヴェネツィア ときどき イタリア

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「プレーのどこを視るか サッカーがさらにおもしろくなる『ガゼッタ』式採点の裏側」 小川光生・著

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5W1H。
いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どうしたか。
日本ではおそらく今でも、作文には必ずこれを入れるように、と学校でも習うのだろうと思う。そして詩や小説ならともかく、少なくとも新聞の記事においては、絶対にそれらが不可欠なはず。
イタリアの新聞は、とてもわかりづらい。新聞だから、お堅い、小難しい単語や熟語が羅列しているからというわけではなく(かつてはそうだったのかもしれない)、イタリアの新聞の場合、まず、この5W1Hが明記されていないことが多いから。あっとびっくりするような、かますような文章で始まり、レトリックや皮肉に終始しているため、まず基本の「何が起きたのか」を知っていないと、さっぱり意味不明なことも多い。
一般紙でもそうなのだから、スポーツ紙にいたってはなにをいわんや。そう、確かに今のご時世、気になるスポーツの結果を翌朝の新聞で、初めて知る、なんてことはほとんどあり得ない。みんな生中継か少なくともダイジェストやTVニュースで、結果と、ある程度の内容はすでに把握している。だから、新聞のほうだって正確に経過や結果だけを伝えるよりは、より突っ込んだ解説であったり、試合の内容だってもっとドラマチックに、ストーリー仕立てでより面白く伝えなければ読者を引きつけることはできない。
その劇的演出の最たるものが、もちろん見出しと、写真。
日本でもスポーツ紙の見出しは、言葉遊びを駆使した面白いものが多いが、イタリアのそれは、とくに悪いときに容赦ないものが多くて、本人が見たら・・・と思わず心配してしまうこともある。



「プレーのどこを視るか サッカーがさらにおもしろくなる『ガゼッタ』式採点の裏側」 小川光生・著_a0091348_2254162.jpg


そんなイタリアのスポーツ紙といえば、まずは何と言っても8割方サッカーなのだが、そのサッカー記事の中で、よくも悪くも、見出しになるほどではなくとも、1試合プレーしたあと、サポーターはもちろん、やはり選手にとっても気になる存在だろうと思われるのが、「パジェッラ」と呼ばれる個人成績表。今では各スポーツ紙のみならず、大手一般紙のスポーツ欄でも、主な試合の「パジェッラ」が出ている。
もちろん、「成績表」と言うからには、できるだけ公平でブレないよう考慮されるらしいが、これ、記者やサポーターの投票などではなく、あくまでも担当記者1人の採点になるので、当然、採点者の個性が繁栄される。
さらに、あなどれないのが、その得点の横に添えられるコメント。原則的に、一定時間以上プレーした全選手に、 毎回毎回、よくもまあこれだけ考えつくな〜と感心するのだが、1人あたりわずか2行ほどの小さな欄に、寸評がぎっしり詰め込まれている。筆者は、「俳句のよう」と表現しているが、確かにここには、見出しとはまた違ったセンスが求められる。省略や比喩が多すぎて、事情をよく知らないと???なこともあれば、読んで思わず、ニヤリとさせられることもあり、さながらひとこまマンガのよう。
イタリアで圧倒的部数を誇る、あのピンク色の紙のスポーツ紙、ガゼッタ・デッロ・スポルトのパジェッラ記者(パジェリスタ)たちの目に、セリエA内外の往年の名選手、ワールドカップやチャンピオンズリーグ、そして日本代表の選手たちはどう映ってきたのか。
現在インテルに所属する長友選手や、かつてセリエAの複数のチームでプレーした中田元選手は、どう評価されてきたのか。その理由は。
持ち上げたかと思うと落とす、辛辣で容赦ないコメントは、日本の新聞ではとても考えれない。そうやってセリエAの選手たちは「口」撃にも鍛えられていくのか、とも思うが、やはり中にはしばらく選手に口を利いてもらえなくなったりすることもあるらしい。

・・・と、そんな「パジェッラ」裏事情を明かす本書は、一見かなりマニアックな本に見えるが、ページを繰ってみると案外、すんなりと読めた。「ごく普通のサッカー好き」で「イタリア・サッカーに興味」がある人なら楽しめると思う。おすすめ。

27 maggio 2013
by fumieve | 2013-05-27 22:56 | 読む
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