たかがマンガ、たかがマンガのガイド本というなかれ。
歴史上の実在の人物、チェーザレ・ボルジアを描いた「チェーザレ〜破壊の創造者」の魅力は、今さらあえてここで語ることもないだろう。
のちのローマ教皇アレクサンドル6世、ロドリーゴ・ボルジアの息子として生まれたチェーザレの魅力に、マンガではどんどん引き込まれてしまうが、読んでいて歯がゆいのがその当時の状況の複雑さ。 本国スペインでは絶大な力を誇っていたであろうボルジア家も、15世紀のイタリアではまだまだ振興貴族の1つ。 イタリア半島にイタリアという国は存在せず、ローマを中心とする教皇領のほか、フィレンツェ、ミラノなど列強がお互いを牽制しあって、小さな都市国家はまるで碁盤の目のようにその運命がくるくると変わっていた。
うーん、イタリアのこのころの歴史をきちんと復習して、もう少し事態を把握して読めたらもっともっと楽しめるはず、と思っていたら、そんな願いを叶えて余りある、すばらしいガイドブックが登場した。
なぜ、チェーザレ・ボルジアなのか。
(惣領冬実さんがチェーザレを描く、お宝画像もっ!!!)
そこにいたるまでの、イタリアの歴史と当時の状況。
キリスト教とは、教皇領、ヴァチカンとはなにか。
そして、人名事典・中世重要人物は、1人1人の解説とそれぞれの年表に加え、マンガでの重要なコマを紹介。ここはとくに、「チェーザレ」ファンならば、1コマ1コマ、ああ、そうそうと自然に前後が思い浮かぶのではないだろうか。
家系図や相関図、地図や年表も充実。これが高校のときの世界史の副読本だったら、もう少し成績もよかっただろうに・・・。
美術史家、池上英洋氏による「絵画にみるチェーザレ関係者たち」や、当時のファッション紹介。
そしてそして、さすが日本のガイドブック、もちろん食や宿の情報も欠かさない。それだってどれも、チェーザレおよび周辺がらみなのだから、すごい。
パラパラと拾い読みするのにも、端からじっくり熟読するのにも、どちらでもOK。
唯一、ほんの少し残念なところを挙げるとすると、当時やはり列強の1つだったヴェネツィア共和国の扱いがうんと小さいこと(ないはずはないのにと思って、かなり探してしまった)。まあ、チェーザレとの関わりが少なかったので、仕方がないのだけど・・・。
でも読んでいるうちに、フィレンツェへ、ミラノへ、とくにもう絶対に、すぐにでもローマへ飛んで行きたくなってしまう。
そして、「ルネサンスのローマ地図」を見ながら、チェーザレゆかりの地を訪ね歩いたら楽しいだろう。
ちなみに、画像はすべて「クリエイティヴ・コモンズ・ライセンス」付き、ということで、ダウンロードしたPDFファイルを利用した。
なんでも業界初だそうで、初版本に限り、本書全ページのPDFをダウンロードできるパスワードがついている。お気に入りのページを印刷したり、こうしてネットに掲載するのも自由なので、興味のある方はぜひぜひ、早めに入手されることをお勧めする。
古書に囲まれる、監修の原基晶さんと、作家の惣領冬実さん。どちらもすてきっ!
8 novembre 2013