この建築ビエンナーレ期間に合わせて、ヴェネツィアには「ガラスの茶室」も登場している。
ほとんど超現実的な、
「9つの黄金の柱」であっと言わせたサン・ジョルジョ・マッジョーレ島、「柱」のように外からは見えないが、それだけに垣根の中に現れるモダン・ジャポニズムな空間はとても新鮮。
日本の美術家、杉本博司さんの作品、The Glass Tea House Mondrian。この島に本部を置くジョルジョ・チーニ財団が「ガラスの部屋(Le stanze del Vetro)」と題した企画で、これまでに、
カルロ・スカルパや
ナポレオーネ・マルティヌッツィらによるヴェネツィアのモダン・ガラスを紹介してきたが、これもその一環のプロジェクト。考えてみれば、これはその「ガラスの部屋」そのものだから、目から鱗というのか、なんというのか・・・。
なるほど、茶室のあの幾何学的な構成は、モンドリアンの絵画作品とよく似ている。
そして、もちろん主役は透明ガラスによる茶室そのものだが、実際に水を張った浅い池の床は、ガラスのモザイク。一色で、直線的な構成を埋めているのは、そういえば「9つの柱」と同じ。全く別々に創造された全く別の作品が、こうして同じ島の中で呼応し合っているのが面白い。
「実用の建物を設計するのは建築家。自分はアーチストだから、それを必要としない。」と杉本氏は言う。だが、この茶室は実際に利用できるツクリになっており、6月のオープニングの際には、実際にお茶会も開かれた。現実的には、このヴェネツィアの陽射しの下、何もさえぎるもののないガラスのボックスは、青いガラスの水面からの照り返しも受け、強烈な暑さになっているに違いない。
だが、これはあくまでも「茶室」をかたどった一美術作品であり、実用のために設計された建築物ではない。
建築ビエンナーレ開催中のヴェネツィアで、日本の茶室という、おそらく世界でも最もシンプルで完成度の高い建築物を美術作品として再提案することで、逆に、「建築」のあるべき姿を真摯に、少し皮肉に問いかけているように思う。静謐な空間に見えて、実はかなり強烈な挑戦状なのではないだろうか?
そして、まさにそれが「美術」の役割でもある。
美術展と建築展と、同じ場所で隔年で、交互に行なわれているビエンナーレではしばしば、「美術」と「建築」の境目が問われる。美術展では建築物並みのインスタレーションがあるかと思えば、建築展ではまるでファンタジーな夢の世界が繰り広げられたりする。
今年の建築展では、ディレクターが各々の国に、空想的未来世界を描くのではなく、100年の歴史を振り返ることを要求した。それは過去への反省と「建築」とは何か、という原点への回帰を促した。
美術家の建築的作品を建築展の年に展示する、その意義が見えたように感じた。
Hiroshi Sugimoto
The Glass Tea House Mondrian
6 giu - 29 nov 2014
http://www.cini.it/events/glass-tea-house-mondrian-by-hiroshi-sugimoto
21 lug 2014