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ヴェネツィア ときどき イタリア

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佐渡裕 フェニーチェ管弦楽団(マリブラン劇場)

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ベートーベン、エグモント序曲へ短調op.84
シェーンベルグ、変奏曲op.31
ベートーベン、交響曲第8番、へ長調op.93

Ludwig van Beethoven
Egmont, ouverture in fa minore op. 84
Arnold Schoenberg
Variazioni op. 31
Ludwig van Beethoven
Sinfonia n. 8 in fa maggiore op. 93
Teatro Malibran, Venezia

舞台は一期一会。そうわかっていても、今回ばかりは最後の最後まで悩んだ。フェニーチェ管弦楽団で、佐渡裕氏が振る。が今日は時間的に切羽詰まっている上に、1番安い席でも20ユーロ。今月は仕事が思うようにいかず、緊縮財政どころか、大赤字の上、今月は何かと物入りな身にはきつすぎる。
プログラムに特別にひかれなかったせいもあるが、まあ、佐渡裕氏のオーケストラならまた聴く機会もあるだろう、と一旦はあきらめた。

佐渡裕 フェニーチェ管弦楽団(マリブラン劇場)_a0091348_7281970.jpg
ところが・・・夕方うっかり外を歩いていたら、「出会ってしまった」。いや、知り合いじゃないから、「見てしまった」というのが正解。ヴェネツィアの町の中で見かけた佐渡さん、ごく普通の日本人観光客っぽいのだが、圧倒的に背が高いので実はかなり目立つ。
3秒前にお菓子屋の写真を撮ったりしてカメラを手に持っていたのだが、せっかくのお休みの時間、失礼かと思い写真は遠慮。声をかけたいくらいだったが、お急ぎの様子だったので結局それもやめてしまった。
が、ここでパチーン!大げさに言うと、この人がこのヴェネツィアの空気を吸って、どういう音楽を仕上げるのだろう?とこれはもうどうしても行かなければ、と意識が急旋回。

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馬蹄型劇場の一番端、舞台に1番近いところの3階、しかも2列目となると座っていては全くなにも見えないが、立ちあがるとちょうどオーケストラを上からのぞきこむようになる。舞台向かって左側は実は初めてだったが、もう少し目を凝らせば、指揮台のスコアと、コンサート・マスターの楽譜くらいは読めそうな勢い。指揮者・佐渡裕という人を、まるまるじっくり観察してしまった。
ベートーベンのエグモント。佐渡さんは何といってもその恵まれた体躯と若さで、全身を使った勢いのある指揮、というイメージがある。それはもう、期待通りでさすがにカッコいい。が、すぐに気がついたのは、手の美しさ。手が繊細と言っていいほどきれいで、その手と指の動きが大変細かくやわらかい。・・・あ!と思った。それまで厳しい表情をしていた佐渡さんが、突然ピカーっと笑顔になったかと思ったら、華やかなファンファーレが入って、曲が終わった。
だいたい他の指揮者をここまでとくと観察したことがないからよくわからないが、佐渡さんについていえば、すみからすみまで、その表情がびっくりするくらい豊かなことに気づく。
荘厳な音のときは誰よりも荘厳に、楽しいところは誰よりも楽しそうに。悲壮なところは誰よりも悲壮に、軽快なところは誰よりも軽やかに。顔の表情と、手と指の動き、それから全身で表している。
だいたい、楽器を演奏する人や歌う人と違って、指揮というのは、いったいどういうことなのだろう?と思うが、佐渡さんを見ていると、なるほど彼が実際にこの音を生み出しているのだ、とよくわかる。大きくティンパニーが入るところはティンパニーをたたき、フルートの甘い旋律ではフルートを奏で、ヴァイオリンの流れるところでは弓を弾く。そうしてずっと、目と口で歌っている。ああ、この人の指揮で演奏するのはわかりやすいし、まず、楽しいだろうな、と思った。
基本的には右手は指揮棒を持っているから、いろいろなことを語っているのは左手なのだが、しばしば指揮棒を置いて、両手で指揮を始める。音をそっと、両方の手のひらでやさしくなでるように。あるいは、ふろしきを広げて、そこからたくさんの花びらがこぼれるように。ふっと、手を下ろし、音楽がそのまま流れていくのを見守る。そう、こぎ出した船が、しばらく櫂を必要とせずに波に乗っていくかのように。そしてまた、きゅっと手綱を引きよせる。
指揮者には、音楽的才能だけではなくて、人をひっぱる力、何よりまず人とコミュニケーションする力が備わっていなければならないのだろうが、この人は確かに、言語を越えたコトバを持っている。いや、音楽は言語を越えたコトバに違いないのだが、合奏という形でそれを完成させるには、コミュニケーションが必要なはず。重要なのは心だが、それは残念ながら、念じているだけではなかなか伝わらない。

少々難解なシェーンベルグのあと、休憩をはさんで再びベートーベンのシンフォニー。
その魅力を十分たっぷりみせて、今夜の演奏会は幕を閉じた。

空席が結構目立ったのが残念。明日10日(日)は同じマリブラン劇場にて17:00から。

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9 febbraio 2008
by fumieve | 2008-02-10 07:31 | 聞く・聴く
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