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ヴェネツィア ときどき イタリア

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市山あいさん(ピアノ) 卒業演奏会

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現代音楽の、それも知らない曲は、難しい。次にどうくるのか、どこでどうノッていいものかわからず、聴いているほうはついつい固まって「様子を見ている」みたいになるから、弾いてる方はもっと難しいのではないかと思う。
今回、紙に印刷されたプログラムが用意されていなかったため、すべてあとから本人に確認したのだが、この現代曲は、武満徹のLitanyという作品だった。
続いてはタリアピエトラ(Tagliapietra)のstudio、ショパンのstudio。

もともと、日本の音楽大学と違って、中学や高校に通いながら始めるイタリアの音楽院(Conservatorio)のピアノ・コースは、10年制。卒業しても、一般大学の卒業資格(laurea)ではなく、ディプロマ(diploma)という称号だったのだが、それを一般と同じlaurea扱いするために制度を移行しつつあり、旧来のコースの「卒業」は、I livello(第1レベル)卒業と呼ばれるようになった(らしい)。(といっても相変わらずdiplomaのようだが。)
その、第1レベルのピアノ・コースの卒業試験は、聞くだにすざましく、まず実技(演奏)が、古典から現代まで各種取り揃え、ソロ、プラス、コンチェルト1曲の合計2時間。その前に、卒業論文も提出し、かつ、演奏と同日、一般の大学同様、論文についての質疑応答もある。
神業のように準備・練習・勉強が必要だ。

いったいどれだけ練習をしたのか、門外漢には想像もつかないことだが、少しづつ時代を遡っていく、あいちゃんのピアノを聴きながら、まさに白鳥のようだと思う。水の下で、どんなに必死に足をバタバタさせていようとも、そんな労苦は表には全く見せずに、優雅に美しく、すべるように水の上を行く白鳥。
そして、ベートーベンのソナタn.81。演奏会といっても、実質は卒業試験であり、これまでの数年間の集大成になるわけだから、その緊張も計り知れない。比較的、やわらかでなめらかだった最初の3曲に比べ、あきらかに激しく、力強いベートーベン。このあたりから、白鳥はバタバタからふっと自由になった。ああ、そうか。ほんとの白鳥は、足を下でバタバタさせていることを、思い出させてはいけないんだ、と思う。
一瞬の休憩をはさんで、再びショパンでAndante spianato et Grande Polonaise brillante。半分を過ぎて、少し緊張も落ち着いたのだろう。これはまた特によかった。自由で明るく、楽しいピアノ。おそらく、本人にとっても得意な曲に違いない。これまでの曲に比べても、最も弾きこまれているというのだろうか?一番場慣れして、軽やかに弾いているように思えた。
そしてここからは、卒業論文で取り上げたスペインの作曲家、グラナドス(Enrique Granados)の作品から3曲。OrientaleからDanza spagnolas、 GoyescasからQuejas ó la Maja y el Ruiseñor、そしてEl Palele。ちょっと映画音楽のような、ロマンチックでセンチメンタルなラテン・ムードたっぷりな世界を鮮やかに披露した。

気になったのは、あいちゃんが18歳でヴェネツィアに来たときからずっと、指導教官だったという、Anna Colonna Romano先生。この日の演奏を、立ったままずっと全身で拍子をとりながら聴いていた。「特に前半は彼女、ずいぶん緊張してましたね?」と尋ねると「こっちの方が緊張したわよ!!!弾いてる方は何が起きるか全部知ってるけど、こっちは何が起きるのか全くわからないんだから!」
見るからにすてきなおばあちゃん先生で、いったいどんなレッスンをするのか、のぞいてみたいような気がした。

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ここまでが約1時間半の第1部、去る9月24日に行われたもの。
そして今日、10月4日。モーツァルトのピアノ協奏曲、ハ長調k.467, n.21。
モーツァルトのコンチェルトなど、よく知られ、また誰にでも耳になじみにくい曲こそ、ほんとうは一番難しいだろうと思う。それに、緊張は前回と全く変わらないばかりか、ほんとに最後の最後になる今日のほうが、もっと緊張しているかもしれない。
が、今日はまったくそれを感じさせない、堂々と、かつ自然に、これぞモーツァルトという美しい音楽で聴衆を魅了した。
蛇足だが、1人で演奏するのが宿命のソリストにとって、コンチェルト(協奏曲)の相手選びはまた別の意味で難しいものに違いない。今日、ピアノで伴奏を務めたKくんもまたすばらしかったことを追記しておきたい。正確でしっかりとソリストを支え、盛りたて、あるときはひっぱる、優秀な伴奏者なしにはまた、今日のモーツァルトは存在しなかっただろう。

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そのあと行われた、卒業討論と、発表は残念ながら一般非公開。
だが、みんながやきもきと待ち構える部屋に出てきた第一声は「110点(満点)!!!」。

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あいちゃん、ほんとうにおめでとう&おつかれさまでした。
長い留学生活を終えて、日本での新たな生活と活躍を心から応援しています。

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4 ottobre 2008
by fumieve | 2008-10-05 09:24 | 聞く・聴く
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