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ヴェネツィア ときどき イタリア

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泣くほど笑える 「北へ下る」(Giù al Nord)

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「前任者が全部自分のモノは持って行っちゃったんですね。」
「・・・彼のモモ(腿)?」
「ええ、モノです。」
「モモ???」

フランス、プロヴァンス地方に住む、郵便局員フィリップ・アブラム氏は、鬱ぎみだという妻、ジュリーのために数年前からコート・ダジュールへの転勤を願い出ている。ところが、姑息な手段を使おうとしたのが裏目に出て、辞令が出たのはいいが行先は北の果て。
防寒具を着こんで、単身、嫌々たどり着いた小さな町、Berguesは嘘のような大雨。そこで彼を待っていた部下との最初の会話だ。
もとのフランス語ではどうなっているのかわからない。が、イタリア語吹き替えでは、この地方では、sa(サ)、 si(スィ), su(ス), se(セ), so(ソ)の音が、シャ、シ、シュ、シェ、ショ、となってしまうらしい。コーゼ(Cose、もの)が、彼らの発音では、コーシェ(cosce、腿)となってしまっている、というのがオチ。
「ここではみんな、そんなしゃべり方をするのか。」「しょりゃ、しょうでしゅよ。」
変なイントネーションに、独特の言い回しや単語。それから、「私」を表す目的語のme(標準イタリア語では「メ」と発音)が、「ミ」になったり。
・・・ん~~~これって実はかなりヴェネツィア含む、ヴェネト語っぽい。いちいち大爆笑の渦の映画館の中で、一緒に笑いながら「おいおい、キミたちだよ・・・」と突っ込みたくなってしまう。(もっともヴェネト語では、コーゼ(もの)はコージェという音に近くなるので、コーシェまたはコッシェ(腿)とは間違わない。)
スマートで洗練されておしゃれな、プロヴァンスの人たちと違って、大きなおなかに赤いほっぺ、いかにも木彫りの人形か何かでお土産に売ってそうな田舎丸出しの人たち。いるいる、こういう人たち、ヴェネトのちょっと田舎にいくと・・・あ、ヴェネツィアにもいるけど。
この中で、どうやって郵便局長をやっていくのか・・・。
見知らぬ外国人のなかに投げ込まれたかのような、暗澹たる気持ちのフィリップだったが、その彼らのペースに翻弄されつつ、やがて生活を楽しむようになっていく。
転換点は、彼らの言葉や習慣を、積極的に取り入れることにしたところから。「何でしょうか?」と聞く代わりに、お腹から思いっきり「(べ)え~???」と声を出す。地元の俗語。独特の食べもの。もともと、ひとのいいところだから、そうして飛び込んでくる人は温かく迎え入れられる。

舞台になっているNord-Pas-de-Calaisという地方は、フランス北端、ドーヴァー海峡に面し、ベルギーと国境を接していて、確かに見るだけでも寒そうだ。加えて、元・炭鉱の失業者の町、というイメージが強いらしい。
監督のDany Boonは、フランスの中でも「寒くて暗くてみじめなところ」といわれるNord-Pas-de-Calais(カレー北部)地方の、ほんとうのよさをわかってもらおうと、この映画を作ったという。

ちらり、と効果的に映る街並みは、確かにフランスというよりは完全にベルギーで、それはそれで瀟洒で美しい。
そして何よりも、ストーリーの鍵にもなっている、カリオン(Callion)という楽器。一見、鐘楼のようなのだが、これがもっと複雑に、たくさんの鐘が組み合わさってできている。弾いているところは初めてみたが、ちょっと機織り機のようにたくさんの細い棒が並び、パイプオルガンを弾いているようでもあるが、鍵盤はなく、何やらものすごい力で(腕ごと?)叩くものらしい。
その音が、小さな町に降り注ぐ様子は圧巻で、あれだけでもぜひ、見に(聴きに)行ってみたい。もっとも、やっぱりかなり寒そうなので、今からは無理、どうせなら春~夏がいいが。(そして、朝から匂いのキツいチーズをパンに塗って食べるのはやはり遠慮したいが。)

イタリアならどうか、というのでだいぶ評判になっているようだが、国内差別や蔑視、または移民の問題を、良質な娯楽映画として扱えるところが、フランスはやはり社会的に一歩成熟しているのかな、と思う。
映画1本で、これだけお腹から笑ったのは久し振りな気がする。もう1回見てもいいくらい、気に入った。仏語原題は、Bienvenue chez les Ch'tis(こんなとこへようこそ)。(★★★★★)

www.bergues.fr
8 novembre 2008
by fumieve | 2008-11-09 09:05 | 映画
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