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ヴェネツィア ときどき イタリア

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グリマーニ館美術館、25年越しでオープン

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Museo del Palazzo Grimani
Rama Grimani, Castello 4858
30122 Venezia
www.palazzogrimani.org

今年の夏、ヴェネツィアに新しく現代美術館がオープンするのは先日紹介した通りだが、一足先に、実はもう1つ別の美術館がオープンした。
パラッツォ・グリマーニ美術館(Museo del Palazzo Grimani)。
現代美術館の「税関岬」が約2年の突貫工事だとすると、こちらはなんと25年もの間、一般の前に扉を閉じていたという。そして、「税関岬」は、建物の外観を残しつつ、内装をまったく新しくする改装工事を行っているのに対して、このグリマーニ館は、16世紀、室内の装飾がされたそのままの姿にできるだけ近づける、いわゆる「修復」作業が行われた。

名前の通り、グリマーニ家の住居であった建物だが、もともとL字型の建物があったところに、大きく2回にわたり増改築がおこなわれ、現在はまんなかに中庭を含む、ロの字型になっている。そのときのプランに関しては、当時ヴェネツィアで活躍していた建築家少なくとも3名の名前が上がっているが、確定はしていないらしい。

では、そのグリマーニ家とは何か?というと、ヴェネツィア・ルネッサンス期の美術、文化は、芸術、とくに古代美術への深い愛情と情熱を注いだグリマーニの名前なしには語れない。
特筆すべき点は、彼らが、美術、考古学に傾倒し、多くの美術品を蒐集したのみならず、その自らのコレクションを友人・知人に鑑賞してもらうよう、自宅を「美術館化」したこと。そして、死後、そのコレクションを(あっさりと?)ヴェネツィア共和国に寄贈していること。
1523年、枢機卿ドメニコ・グリマーニは遺言にて、ヴェネツィア共和国に自らのアンティーク・コレクションを寄付する。大理石やブロンズの彫刻など、主にローマで発掘されたもの。
さらに、1587年に、アクイレイア大司教であったジョヴァンニ・グリマーニが、ローマ、アクイレイア、そしてギリシャの古代彫刻を寄付する。
そして、この2つのグリマーニ・コレクションこそが現在の、ヴェネツィア国立考古学博物館の核となっている。

絵画や彫刻、美術作品が陳列されているのが、もし「美術館」の定義だとすると、ここは厳密には「美術館」と呼ぶにはふさわしくないかもしれない。
王侯貴族などのかつての住居などを、その当時の調度品や所有していた芸術作品などを置いた「博物館」や「美術館」はいくらでもある。ヴェネツィアのカ・レッツォニコ18世紀博物館もそうで、当時の屋敷に、もともとの所有ではなかったが同じ時代の調度品を入れ、壁や天井のフレスコ画などと合わせて、その雰囲気を味わうことができる。
が、ここは、ほんの2,3の美術作品をのぞき、今のところほぼ完全に「空」のまま残されている。あくまでも、天井や壁のフレスコ、漆喰装飾を見学するためだけにある。
考古学博物館に展示されているグリマーニ・コレクションを、この屋敷に、つまりできる限りもとあった状態に戻すかどうか、ずいぶんと検討されたらしい。結局、このグリマーニ館は、考古学博物館の「別館」のような扱いにしつつ、建物だけを見学する施設として残すことになった。

ローマ通だったグリマーニ一家が、住まいもできるだけローマ風にとした屋敷は、当時ヴェネツィアでは全く新しい建物だったらしい。

案内について、中庭の角にある階段から、建物の中に入る。壁には「だまし絵」のフレスコ画の残る、「中二階の間」(Sala Mezzanino)を通ったところでいきなり、「モニュメント階段」(Scala Monumentale)の下に出る。短く、そう広くもない階段だが、パラッツォ・ドゥカーレ(Palazzo Ducale、総督館)の「黄金階段」を思い起こさせる、フレスコと漆喰で装飾された天井が美しい。

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漆喰は、グリマーニが所有していたカメオを写したもの。そのうち1つは、現在エルミタージュ美術館の所蔵になっているものらしい。
この天井画に始まり、続くあちこちの部屋の装飾にしばしば、正義や潔癖、といったテーマが現れるのは、1558年からこの屋敷の実質単独所有者となったジョヴァンニ・グリマーニが一時、親ルター派の疑いを持たれて、亡命生活を余議なくされたことがあったため。

階段を上がったところが、「ポルテゴ」(Portego)と呼ばれる部屋。これは通常、ヴェネツィアの伝統的お屋敷建築で、2階中央の縦長のサロンのこと。現在はまったく空っぽだが、両壁を埋め尽くすように、絵画や彫刻があったはず。この美術館では、想像力をフル回転することが要求される。
続いての「黄金の間」(Camaron d’Oro)は、名前と裏腹にほとんど空っぽなこと・・・かつ、あのヴァチカンにあるはずの「ラオコンテ」の彫像があるのにちょっとびっくりする。これはちなみにコピー。一方で、同じ部屋にある2つの胸像は、「本物」のグリマーニ・コレクションで、今回、考古学美術館からこちらに展示替えになったそう。

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その次が「葉っぱの間」(Sala di fogliami)。天井全面を埋め尽くす緑の葉が美しい。よく見ると、葉だけではなく、花や果物、そして多くの鳥が飛び交っている。オリーブやぶどう、りんごにいちじく、と、イタリアの伝統的な植物に加え、トウモロコシやタバコ、という新大陸からもたらされた新しい植物が混じっているのが特徴。描いたのは、カミッロ・マントヴァーノ。

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「通過の間」(Sala di Passaggio)を通り・・・

突き当たりが、「トリブーナ」(Tribuna)。

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本来、観覧席とか傍聴席、とかの意味を持つこの部屋は、グリマーニのアンティーク・コレクションを置き、それを一気に見せるための部屋だった。130もの彫刻・彫像があったというから、ニッチや額縁、台になったところが、すべて彫刻で飾られた様子を想像しなくてはならない。

もともとはなかったという穴を通って、次の間へ。18世紀の「寝室」(Sala da letto)で、天井画は、ローマ時代の結婚式の様子が描かれたものであることがわかったらしい。

次が「食堂」(Sala da Pranzo)。

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狩猟や漁がテーマ・・・と、わかりやすい。これも「葉っぱの間」と同じ、マントヴァーノの手による。興味深いのは、当時の記録で、「中央の楕円にはジョルジョーネの絵があった」と明記されていること。今あるものはもちろん違い、また、それらしきジョルジョーネはこれまで見つかったことがないそう。

その先の細い通路は、左側が小礼拝堂。右側には、パッラーディオ風のらせん階段が見えている。

広い部屋は、「総督アントニオの間」(Sala Doge Antonio)。やはり一度は亡命の憂き目にあいながらも、ヴェネツィア総督(1521-23)まで上りつめたアントニオの胸像は、もともとここにあったものではなく、したがって総督の服装をしていない。

続く神話の間3つ。1つめが、「アポロの間」(Camerino d’Apollo)、ローマのドムスアウレアを直接思い起こされるグロッタ様式の天井画は、ジョヴァンニ・ダ・ウディネによる。

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「カリストの間」(Camerino di Callisto)は一転して、白漆喰と金のみで、その対比が鮮やか。

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「プシケの間」(Sala di Psciche)には、壁の端にわずかにフレスコが残るのみ。八角形の大きな絵は、近年になってアンティーク市場で購入したものだそうで、もともと天井に、同テーマで八角形の「傑作」があったとの当時の記述のため。これが果たして同作品なのか、コピーなのか、あるいはまた別のものなのか、全くわかっていないという。
またここには、もともとグリマーニ・コレクションで、パラッツォ・ドゥカーレに貸与されていたボッシュの1作品も展示されている。
もとのポルテゴに戻り、最後がその奥の「暖炉の間」(Sala di Cammino)。

あくまでも仮オープンだという現在は、火曜日~日曜日、9時半、11時半、13時半のガイドつき見学のみで、完全予約制。ガイドも今のところイタリア語のみ。(万が一、日本語訳をぜひ、という方はご相談を・・・。)

ちなみに写真は、原則、というか近い将来には完全に禁止となる。現在はまだ仮オープン扱いで、書籍もパンフレットもないため、個人の「思い出」用のみ、フラッシュなしなら特別にOK、ということで撮影した。なぜそんなにたくさん撮るのか、と疑われつつ。
なので、このブログに載せているところも、みつかったら怒られるはず。(なのでくれぐれも写真ごとプリントアウトしたものを現地に持ち込まないでください・・・お願いします)

20 gennaio 2009
by fumieve | 2009-01-21 08:17 | 見る・観る
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