5月26日まで
Junko Hoshino
Galleria Venezia Viva
Campo Sant’Angelo 3579
9-26 maggio 2009
16:00- 19:30
もう何年も前から、ずっと気になっていた。赤地に、ヴェネツィアのシンボルのライオン、そして人の名前だけがどーんと記されたポスター。
ヴェネツィアにいるときは毎日のように通るサンタンジェロ広場(Campo Sant’Angelo)、そのほんとに片隅に、版画専門のギャラリー、Venezia Vivaがあった。
蔦に覆われた、ローズ色の壁。いかにもヴェネツィアらしい建物の入口を入ると、明るくやさしい色が舞っていた。
小さな一空間の、小さなギャラリー。
ヴェネツィア在住の版画家、星野潤子さんの作品展。
ヒトのような、ハトのような、サカナのような。
くしゅくしゅとやわらかいシワ加工風の地を背景に、生命体のようなものがひらひらと舞っている、不思議な作品たち。そして、1つ1つの「木」はダンサーなのに、「森」を見ると、あたかもちょうど音符の散りばめられた楽譜となって、ハーモニーを生み出している。
手で彫った版に、手で色をつけ、バレンを使って手で刷る、多色の木版。素朴な味になりがちな伝統的な手法も、潤子さんの手を通すと、まるで繊細な縮緬の絹織物のようになる。あくまでも、手のぬくもりを残しつつ。
木版画という、イタリア人というか一般に西洋人から見るといかにも日本のお家芸である手法を、もともと商業デザイナーであった潤子さんが本格的に学んだのは、ここヴェネツィアに来てから。以来、木版にとりつかれて10年以上。途中、一度は日本の高名な先生にも師事し、文字通り版を重ねて、それでも、ようやく思いをうまく版に託せるようになったのは、この数年のことらしい。
海外で活躍するアーチストで、「日本的」というレッテルを嫌がる人もいるが、潤子さんはそれを特にいとわず、イタリア人のみならず、観光でやってきてギャラリーを訪れる、ドイツ人やフランス人の反応も楽しむ。
網目の地を透かして、紙そのもの風合いの美しさも活かした作品、紙はやはり、日本の和紙ならでは。その紙を使った上で、実際は、日本ではほとんどやっていないだろう、という手法こそが、彼女の作品を大きく特徴づけている。
驚きなのは、真ん中に展示された”Emaki”。絵巻そのものであり、やはり反物のようにも見えるその作品は、「本物の和紙を知ってもらうため」のもので、「どうぞ、どうぞ、触ってみて」。汗だくで脂ぎった手をあわてて拭いて、そっと触れてみる。
潤子さんの作品独特の、見た目のやわらかさに反して、硬く、丈夫でしっかりとした紙。これが、びくともせずにさまざまな色の魔術を支えているということか。
もう1つ。
ガラスのケースの中に飾られた、アート・ブック。開くと縦に開くタイプもニクイ演出だが、よく見ると、木彫りの表紙がついているものがある。・・・さすが、中身が木版だから、表紙も木製なのね・・・凝ってるわ・・・。
・・・ん???いや・・・これはもしや・・・?「そうそう、版画を刷ったあとの、版(木)なんですよ~」。!!!これぞまさにリサイクル?いや、使用済みの材料そのまんまだから、有効活用、というのだろうか。アイディアもすばらしいが、それがほんとにすてきな1点ものの本となっていて、ますますすてき。
残りわずか数日となってしまったが、期間中はご本人が毎日つめているそう。本来ギャラリーは日・月が休みだが、特別に開けているとのことなので、ヴェネツィア在住、および滞在中のみなさまは、ぜひぜひお寄りください。写真では全く本来の作品のよさが伝わっていないので・・・。
秋にはローマでも展示の予定。
20 maggio 2009