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ヴェネツィア ときどき イタリア

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蝶々夫人、ヴェネツィア・フェニーチェ劇場

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Madama Butterfly
Giacomo Puccini
Venezia, Teatro la Fenice

蝶々夫人 Micaela Carosi
スズキ Rossana Rinaldi
ケート・ピンカートン Elisabetta Forte
F.B. ピンカートン Massimiliano Pisapia
シャープレス Gabriele Viviani
ゴロー Bruno Lazzaretti
ヤマドリ Elia Fabbian
ボンゾ Alberto Rota

指揮 Nicola Luisotti
監督 Daniele Abbado
舞台 Graziano Gregori
衣装 Carla Teti

すごいものを見た。

さすがに予習も何もいらない、おなじみのマダム・バタフライだから、と、事前にプログラムを買う時間もないほどぎりぎりに行って席に着いた。
幕が開いてみると、意外にも、壁も床も、まったく飾り気のない、真っ白な空間。半透明のガラスの入った白い枠の可動型仕切り。ピッカピカの鏡面ラッカー仕上げの床といい、いわゆる「イタリアン・モダン」な、システム家具の最近の主流のインテリアそのもの。
直線や正方形のモジュールを使ったミニマムな空間はもともと、日本の伝統的家屋や、現代の建築家、デザイナーに影響を受けたものだし、特に引き戸は言うまでもなく、障子やふすまの応用。
だから、蝶々夫人@ミラノ・サローネ、みたいなのも、かえって新鮮でいいのではないか、と思った。

総合芸術とはいえ、オペラの本質はやはり歌、のはず。
だから、見た目だけでオペラを語るのは正しくないのはわかっている。だが、今日ばかりは見た目についてどうしても語らずにはいられない。

ピンカートン、シャープレスは、ごく普通の格好だった。
スズキが出てきたときに、なんとなくいやな予感はした。
・・・いや、ゴローが既に、よく見たら弁髪だし、メイクも結構きていた。ふだん男性のメイクはあまりチェックしていないので、うっかり見逃していた。
通常ならば、結婚式に参列する、親戚や友人役にあたるはずの、女性たちが登場したときにひっくりかえった。・・・バケモノ!!!
頭のテッペンまでヘンな白塗りのお面に、へんてこりんな赤い髪飾り(?)のついたカツラが一体型になっている。まるでホラー映画。・・・かぶっている皆様もお気の毒。
なんていうか、モダンダンスっぽさを取り入れようとして、失敗している、そんな感じ。

そして、お出ましになったマダム・バタフライの真っ赤なドレス。ドレスとしては普通だし、いい色だし、なにより白と赤の対比で見せたいのはわかるが、ピンカートン役よりずっと上背のある彼女をますますでっかく見せている。
不幸な運命に翻弄される、かよわく気の毒な女性、というよりは、場に完全に君臨した女王・・・そう、全体に、トゥーランドットっぽいのだ、この舞台。
しかもやっぱり、日本の花嫁なら、まずは白無垢、そしてお色直しで色打掛、という順であてほしいのだが・・・。(ちなみに、そのあと、初夜の場面で白に着替えていた。それも悪くないのだが、やっぱりどうしても先に白にして、ここはむしろ赤でもいいと思う・・・)

が、マダム・バタフライの衣装なんて、そんなのはささいなことだった、と思わせるほどの衝撃が走ったのは・・・

あ!デストロイヤー!!!

・・・花嫁のおじ、ボンゾが登場したときだった。
後ろ側の床がぐぐぐぐっと上がって、出てきたのは、悪夢に出てきそうなかぶり物から、全身わけのわからない衣装に身をくるみ、強烈なメイクをほどこしたこの世のものとは思えないもの。
衣装(&またはメイク)担当者、はっきり言って、アニメの見過ぎではないだろうか?あるいは、ひょっとすると、案外、自称日本文化好きとかで、歌舞伎をまねたつもりなのだろうか?ちゃんと歌舞伎を見ていれば、僧侶がクマトリで出てくることはあり得ないことがわかるはずだが。
・・・あまりの衝撃に、ともかく彼が下に引っ込むまでは音も歌も何も耳に入らなかった。

そもそも、今回の公演は、わが日本の浅利慶太監督に&森英恵さんの衣装による演出のはずではなかったか?今日は、12年半ぶりに見る、それが楽しみで来たのに・・・。これは一体・・・???
デストロイヤー・ショックでまだドキドキしたまま、幕間に会った友人に聞くと、いつの間にか浅利慶太氏の名は、プログラムから消えていたらしい。そうだったのか・・・やっぱり・・・。どう考えても、これは日本人の演出とは思えない。
昨年の例に見るように、バタフライは危険がいっぱい、だからこそ、浅利演出を楽しみにしていたのに。・・・これってサギではないだろうか?

衝撃のボンゾのおかげで、そのあとヤマドリが、お茶くみカラクリ人形・中国版といったカンジの巨大な人形をお腹の上に貼り付けて出てきたときにも、もはやあまり驚かなかった。

唯一の安らぎは、第二幕第一場最後、ピンカートンの船が港に着いたのを見て、蝶々さんが、スズキと、息子と3人で、彼を待って一晩を明かしてしまうところ。おなじみのメロディー、悲しいがやわらかなコーラスにしばし慰められた。

そして、ああ・・・とどめはというと・・・ピンカートン夫人は、やっぱり、若くきれいで明るい、ちょっとノーテンキでもいいくらいの「アメリカンな」女性であってほしい、と思うのは私だけなのだろうか?・・・目の前に登場したのは、ショッキング・ピンクで全身をコーディネートした、母子家庭相談所の指導員、みたいなおばさんだった。・・・

マダム・バタフライが危険なことは、十分わかっている。それにしても、今日はすごかった。
今度こそほんとうに、もう見ないでもいい、と思った。・・・浅利慶太以外は。・・・いや、そのつもりできたのだ、今日は・・・
くーーー・・・

(写真は、フェニーチェ劇場公式HPから拝借。・・・デストロイヤーはサプライズなのか、写真がない・・・笑)

27 maggio 2009
by fumieve | 2009-05-28 18:42 | 聞く・聴く
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