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ヴェネツィア ときどき イタリア

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Anton’s Memory by Yoko Ono

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ヴェネツィア、ベヴィラックア・ラ・マーザ基金、ティート館
9月20日まで

Fondazione Bevilacqua La Masa, Palazzetto Tito
Venezia
29 mag- 20 set 09
www.bevilacqualamasa.it

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ヴェネツィアで2年に1度開催される、ビエンナーレ国際現代美術展の開幕をいよいよ来週末に控え、町中に、関連のポスターが増えてきた。
この期間、ビエンナーレ公式参加の企画展や各国パビリオン、そして公認の並行企画展。そのほか、非公認というと言葉が悪いが、要するに、ビエンナーレ・マークはついていないものの、ヴェネツィア中の各美術館、ギャラリー、文化団体も一斉に、現代アートをテーマにした展覧会やイベントを企画するから、その全体の数はいったいいくつになるのか、把握しきれないほど。
一度に何百ものアート・イベントがあるのだから、それを知らせるポスターだって、見る人の関心をいかに誘うか、しのぎを削っている。

とりあえず、今のところ、圧倒的に人の目を引いているに違いないのは、ポスター全体に、女性の乳房が片方、どーーーん!と載っているもの。
それは、このオノ・ヨーコ展のポスターだった。

オノ・ヨーコという人について、正直に言うと、あまりよく知らなかった。
あのジョン・レノンの奥さんであったこと、もともと前衛的なアーチストであったが、特にジョンと一緒になってから、平和運動、そして女性運動に力を注いできた人。
一応、まがりなりにも「知っていた」のは、Bed-Ins for Peaceなど、代表的なほんのいくつかの作品。それも、じっくりと、ちゃんと鑑賞したり、理解しようとしたこともなく、なぜだかあえて、今まで避けて通ってきたような気がする。

過激なポスターにまずびっくりして、おそるおそる会場に向かった。

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アントンの記憶(Anton’s Memory)。実存する誰でもなく、また、私たち全ての誰でもあり得る、「アントン」。そのアントンから見た母の記憶、がテーマ。

結論から先に言うと、それは、ほんとうに「静かな」展覧会で、いかにも女性らしい、美しく、またおだやかな展覧会であった。

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例えば、”Touch Me”。パーツごとに分けられた女性の体に、鑑賞者は、実際に「触ってみる」という作品。

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あるいは、一番奥の部屋にもうけられた、”My Mommy is beautiful”という作品では、部屋の中に机と椅子、そして白いカードと、ひきだしには色鉛筆そのほかの文房具がのぞいている。それぞれが、自分の「美しき母」のイメージを、絵でもメッセージでも写真でもいいから表現して、それを、壁にかかったキャンパス上に貼っていく。

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「触れる」あるいは「参加型」の作品は、今どきめずらしくないし、オノ・ヨーコの代表的な作品はそれがほとんどと言えるだろう。

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だが、”The suitcase Piece”はどうだろう?部屋の片隅の置かれた机にはやはりメッセージ用のカード。「どこか、行きたい場所を書いて」、それを、真ん中に並べられた、古いルイ・ヴィトンの旅行用かばん、そのどこかの「中に入れて」。ひとりごとにせよ、多くの人へ向けてのメッセージにせよ、紙に書いて、それを公の場に掲示する場合は、必ず、他人を意識したものになる。ところが、書いたものを、ひとからは見えないところに入れる、となると、それはもう完全に、その鑑賞者自分自身だけのための行為になる。

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1つの展覧会として、特に現代美術の企画展としては、びっくりするものでもないし、むしろ、似たような作品を見たことがあるような気さえする。だが、その既視感こそが、この展覧会の狙いの1つなのかもしれない。「母」の記憶はまた、なつかしい「家」の記憶とも結びついているはずだから。
そう、ヴェネツィアではめずらしくない、ふつうの住居だったこじんまりとした古い空間が、この展覧会の全体を決めている、といっていい。

オノ・ヨーコさんが主張したかったという、女性の、とくに孤独の苦しみは、そこでキラキラと昇華していた。
声高に訴えるだけがメッセージではなく、むしろ、無言こそが、あるときには強烈なメッセージになり得ると、そう感じた。

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29 maggio 2009
by fumieve | 2009-05-30 09:39 | 見る・観る
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