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ヴェネツィア ときどき イタリア

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フォーカス・ジャパン~MITO(神話)の中で

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Sttembre Musica
Torino Milano Festival Internazional della Musica
3-24 settembre 2009-09
www.mitosettembremusica.it

イタリア第1の経済都市ミラノと、かつてはイタリア王国の首都だったこともあり、イタリア最大自動車メーカー、フィアットの本拠地であるトリノは、電車で1時間半ほどの距離にありながら、いや、だからなのか、ふだんあんまり仲がよろしいとは思えない。そんなライバル同士の2都市が協力して、MITO(イタリア語で「神話」の意味)と名付けられた音楽祭を開催し始めて、今年で3年目になる。

クラシックからジャズ、ポップス、民族音楽と、多様な世界の音楽を一堂に集めるMITOが、今年は「日本」をテーマに選び、Japan Focusと題して、日本の伝統音楽や映画、現在活躍する日本の指揮者や作曲家を紹介した。

24日までだったこの音楽祭に、私もぎりぎり最終数日にかけつけ、4つの公演を堪能することができた。

まず、22日のトリノでは「筝曲と日本舞踊」と「能楽」。
17:00からの「筝曲・・・」は会場もリンゴットと市内から離れており、いったいどれだけの人がいるのかと案じたが、ふたを開けてみれば440人収容の会場がほぼ満席。
箏の繊細な調べに乗って歌が始まったときには、再び「字幕が必要だったのでは・・・」とやきもきした。だってイタリアではふだん、イタリア・オペラにだってイタリア語の字幕がついているくらいなのだから。
だが、これまたいらぬ心配。多くの聴衆は、「わからない」のは承知の上で、純粋にその音を楽しんでいた。音の調べにとって、「ことば」は二次的な存在だったよう。
「舞い」については言うに及ばず。美しい衣装と優雅な動きに、トリノ市民は有無を言わさず魅了された。

イタリアにしてはめずらしく、公演中、ほんとうにしーんと静かに静まり返っていたのが印象的だった。それでいて興味深かったのは、この公演に来ていたのは、日本マニアや、日本好きのインテリ層(だけ)ではなく、平日の夕方という時間もあっただろう、年配の、わりと普通の市民らしき人々だったこと。会場を後にしつつ、プログラムを事前に読んだ人や、多少日本について知識のある人が、そうでない人に説明したり、ここがよかった、あれがすばらしかった、と、お互いに興奮しながら話し合っていて、聞いていてこちらもなんだか嬉しくなった。

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その晩の能楽は、太鼓師、人間国宝・亀井忠雄さんとそのご子息3兄弟率いる三響會による公演。
舞囃子「能楽五変化」、狂言「柿山伏」、半能「野宮」の3本立て。最初の「能楽五変化」で能楽の基本の5つを紹介する、と説明があったが、実はこれがかえって一番わかりにくかったようだ。
夕方とは一転して、こちらは明らかに日本についての知識や興味のレベルの高そうな人が多かった。早くにチケットが売り切れて、よほどのマニア以外は入れなかったのだろう。能楽についてもある程度知識がある観客も多く(だが、そうすると途中でぼそぼそ隣の人としゃべったりするのが難点)、それでも初めて見た能楽に感激したり、あるいは戸惑いを見せたりしていた。
とくに語りの多い狂言は字幕なり、もう少し解説が必要だったかもしれない。
逆に、もっとも難しいかと思われた「野宮」は能楽らしい作品ということもあり、これが能というものかと、みな、息をのんで舞台を見つめていた。

また、特に亀井忠雄さんの太鼓は、緊張感の中で、みな固唾をのんでその音に見、聞き入っていた。お弟子さんたちもすばらしいのだが、やはり忠雄さんの演奏は格が違うのが誰の耳にも明らかだったよう。そして、終わってから深々と客席に向かって頭を下げられるまで、その堂々して無駄のない動きの美しさにもまた、ほれぼれと見とれていた。

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23日、ミラノでの雅楽公演。
舞台を見て、雅楽の演奏を生で聴くのは初めてだということに気がついた。
鮮やかというよりは繊細な色合いの直衣、一千年近い歴史を誇る衣装に身を包んだ雅楽は、見るだけで平安の宮の「雅」な世界へといざなう。
ちょっと意外だったのは、奏者の方々が男女混合だったこと。そんなの、現代のどこのオーケストラだって同じことかもしれないが、日本の伝統芸能は、男女同席せず、なものが多いから、てっきり男性だけのものかと思いこんでいた。男女とも、貴族のたしなみであった器楽演奏とはいえ、最も古い音楽である雅楽の楽団で男女混合が進んでいるのは面白い。

初めての雅楽体験に、私は始終、口をぽっかり開けて見とれて(聴き惚れて)いたが、現地で偶然出会った、ヴェネツィア大学の日本語科の教授には、日本でもイタリアでも何度も聴いているといわれてびっくり。でも、考えてみたら案外そんなものかもしれない。

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24日、「歌舞伎と能楽の音楽」公演では、前述の三響會が演奏と「舞い」をミラノ市民に披露した。平日5時からだったこともあろう、観客が少なめだったのが残念だったが、隣になった女性は大感激し、1時間ほどの公演が終わって、「もうちょっと聴きたかった」。
なんでも、クロサワを始めとする日本の歴史映画の中で伝統音楽は耳になじんでおり、今日はそれを生で聴けて感動した、と言う。紫式部にも、キタノタケシにも詳しい日本文化マニアだった。もっとも、一緒に来ていたそのご主人はちょっと退屈した模様。そんな正直なところは何ともご愛敬。

数年前に感じた「日本ブーム」は、ここ1,2年の間少し下火になったのかと思っていたが、また第2次、3次のブームというのか、それこそフジヤマ、ゲイシャ、サムライだけでも、また、浮世絵やマンガ・アニメだけでもない、興味の対象も興味を持つ人も、もっと幅広く、多様化しているようだ。
特にうれしかったのは、トリノで筝曲と舞踊を見た、とりたてたインテリでもマニアでもないふつうの「おばちゃん」たち。日本の文化も今や、イタリアのお茶の間にすっかり浸透しつつあるのかもしれない。

経済不況真っただ中と言われている中で、(フォーカス・ジャパンに限らず)大盛況、大成功に終わったMITO。
日本政府も、いや政府と言わず公私ともに、こんなときこそ思い切って文化予算をつぎ込んで、もっともっと海外での日本文化の普及につとめたらいいと思う。
(ヴェネツィアでも、歌舞伎、能楽・狂言、雅楽・・・の公演、待ってます!!!)

(写真はすべて、MITO公式サイトより拝借。)

26 settembre 2009
by fumieve | 2009-09-27 07:31 | 聞く・聴く
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