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ヴェネツィア ときどき イタリア

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・・・「MA(間)」でもあり「KU(空)」でもある・・・「インフィニトゥム」展

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パラッツォ・フォルトゥニー、ヴェネツィア

In-finitum
Palazzo Fortuny, Venezia
06 giu – 15 nov 2009
www.museiciviciveneziani.it/frame.asp?musid=196&sezione=mostre

(昨日の続き)

この展覧会の展覧会らしかぬところは、それぞれの作品の、作品紹介や解説ボードが、そこには(ほんの一部の例外を除いて)置いてないこと。入口で、A4サイズのパンフレットのようなものを渡され、ずいぶん大きいな、と思ったら、平面図、および一部写真つきの全展示作品リストだった。これがとても優れ物で、結構大きいので、その中に直接、自分の感想やコメント、ちょっとした絵などを書きこんでいけること。
なんだか小学生のワークブックのようでもあるが、これが後からこうして復習するにもとても便利だった。これはほかの博物館や展覧会も、ぜひとも参考にしてほしい。

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各作品の解説のようなものは、だからどこにもないのだが、それは興味があったらそれぞれ調べたらいいということだろう。不親切なようだが、でも実は、「アート」は、ウンチクを語る前にまずは見てナンボ、楽しかったり感心したり、共感したり、興味をひかれたり・・・と、そういうものだということを思い出させてくれる。



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Secondo piano - foto dell'allestimento/ Second floor - Photo of the exhibition layout
Foto/Photo: Jean-Pierre Gabriel


さて、3階(secondo piano)では、それまでの「暗い」1,2階とは一転、明るくすっきりとした空間が開けていた。まず目に入るのが、いくつかの設計モデルというせいもあるが、白を基調に、限りなく無地に近い絵画や、シンプルな立方体や直方体をモチーフにした作品が中心のこの階は、美術展というよりは、建築展を思わせる。
そして、全体にシンプルながら、やはり、色と形を少しずつ共有していくことによって、全く別の作品同士が、まるで初めからそう仕組まれたかのように対話をしている。

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Antonio Canova (1757-1822)
Bozzetto per il monumento a Tiziano/ Project for the Mausoleum of Titian, c. 1791
Terracotta e legno/ Earthenware and wood
Venezia, Museo Correr


屋根裏にあたる4階(terzo piano, attico)は、今回初めて、一般公開された。
無機質で、ややもすると冷たい印象のあった3階とはまた雰囲気を変え、この階のテーマは、「自然」だろうか。同じ白でも、石や石膏の白が際立った3階と違い、ここの白はすべて「紙」。それに「木」、「土」の要素に、有機的なラインが加わって、天井の低い屋根裏という不利な要素を、かえって温かみのある「コージーな」空間に仕立てた。

知らなかったので特に驚いたのは、劇中劇ならぬ、建物内建物とでも言おうか、古い日本の家屋を思わせる建物ができていて(ただし屋根はなし)、これは「ワビ・パビリオン」と称した、Tatsuro Mikiさんという方によるプロジェクト。

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Terzo piano - foto dell'allestimento/ Third floor - Photo of the exhibition layout
Foto/Photo: Jean-Pierre Gabriel


完全な日本建築ではなく、あくまでも「和」を思わせる空間なのだが、これはさすがに日本の建築家が設計しているだけあり、見よう見まねでこちらの人々が作り上げてしまう(変な)ものと違って、そのアレンジにかえってほっとする。
壁の外側に並んだ、「未完成」な信楽の壺たちは、辻村史朗さんの作品。中に入るとすぐ右手はキャンバスを切り裂いた「絵」でおなじみのルーチョ・フォンターナの作品だが、そのキャンバスが六角形というめずらしいもの。対峙するのは、ミロと、アルベルト・ブッリ。下の階ですでに見てきた作家たちの、小さな質のいい作品が並ぶ。

さらに、あっと驚いたのは、その奥の部屋。縁側から眺めた客間のような、一段高くなったところに、丹波、信楽、常滑の大壺が。いずれも室町時代とされる立派な壺が、もちろん、手で触れる範囲ではないにせよ、ガラスケースに収まることもなく、さりげなく3つ、大胆に、お互いに寄り添うように置かれている。
出口に向かう最後の空間には、豪快なパフォーマンス・アートで知られる白髪一雄さんの、意外なことに、手のひらに収まりそうなほどの小さな作品と、それを受けるマーク・ロスコのやはり小ぶりな作品、そして漆黒の茶碗1組。
心憎い演出に、ついつい、うーーーん、と何度も唸ってしまう。


それもそのはずで、この企画展のキュレター、Axel Vervoordt(アクセル・フォヴェルト)氏は、ベルギー出身の骨董・美術品の収集家および大物ディーラーで、美術関係のみならず、インテリア界でもよく知られた人らしい。美術キュレターとしても世界レベルで活躍しており、特に昨年Vervoordt Fondation(フォヴェルト財団)を立ち上げてより積極的に活動を行っている。
このIn-finitum展は、2年前の同館でのArtempo、昨年はパリでQui-es tu? (君は誰?)という展覧会に続く第3段で、このシリーズはここで幕を閉じることになる。

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Terzo piano - foto dell'allestimento/ Third floor - Photo of the exhibition layout
Foto/Photo: Jean-Pierre Gabriel


In-finitumとは・・・「宇宙」であり、「未完の芸術作品」であり、「遠近的構造でいうところの無限」であり、「あいだの空間、すなわち日本語で言うところのMA(間)」であり、また、「暗室、モノクローム、あるいは空洞、すなわち日本語で言うところのKU(空)」である・・・。
ビエンナーレのアルセナーレ会場でも、そのうちの1部屋で日本の「具体」を紹介していたが、ここでも具体の作家・作品がいくつか取り上げられていたほか、1階に展示されていた宮島辰夫さんのSpirit in the Water with Cuban Artistsから、最上階の堀尾貞治さんのインスタレーションまで、実は日本の作家やその作品があちこちで重要な位置を占めていた。
上記、市立美術館群総館長のロマネッリ氏のコトバを見るまでもなく、日本的な文化というものが、またひそかにブームになっているのかもしれない。

それぞれの作品も、展示そのものにも、どきどき、びっくり、ニッコリ、ワクワク。今年、2009年のビエンナーレ美術展・各展および同期間中に行われている各種特別展の中で、間違いなく、イチオシの展覧会の1つだった。

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Shiro Yoshihara (1905-1972)
Untitled, 1965
Olio su tela/oil on canvas, 91x115,5 cm
Collezione privata


3 novembre 2009
by fumieve | 2009-11-04 06:58 | 見る・観る
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